大泉洋は何者なのか? 『元彼の遺言状』第4話にして見えた“ミステリ好き”のためのドラマ

 13年ぶりに新作を発表するミステリ作家・秦野廉(宮田早苗)が、出版会見で突然「人を殺しました」と告白。秦野の作品ではおなじみとなっている“謎解きの挑戦状”だと解釈する篠田(大泉洋)だったが、程なくして秦野が言った場所から男性の首吊り死体が発見されてしまう。しかし別の女性が「夫を殺しました」と警察に出頭。その頃、老舗企業の顧問弁護士になるべく営業先を探していた麗子(綾瀬はるか)は、秦野の作品の出版社が引退間近の高齢弁護士を雇っていることを知る。そして秦野の新作を無事に出版にこぎつけさせ、顧問弁護士の座に滑り込もうと画策するのである。

 5月2日に放送された『元彼の遺言状』(フジテレビ系)第4話は、ドラマのオリジナルエピソードということだろう。“清々しいくらい自分のことだけ”な麗子の強欲さが顧問弁護士への意欲を駆り立て事件へと関与するフックとなり、ミステリ小説をこよなく愛する篠田の位置付けがミステリ作家の引き起こした一連の出来事へ2人を引きずり込むきっかけとなる。そこに紗英(関水渚)が森川製薬の財力を使ってワイドショーのコメントを操作するという荒っぽい手段で助け舟を出すなど、メインキャラクターのキャラクター性を存分に生かして物語が構築されていく。これが一つ前のエピソードでやれていれば尚のこと良かったのだが。

 一つの殺人事件に2人の人物が自供していることから、ミステリ好きの篠田は真っ先にアガサ・クリスティーの『牧師館の殺人』を想起する。これは有名なミス・マーブルの初登場作品でもある傑作だ。しかしその後、秦野の書いた新作の原稿を読み、事件が小説に書かれた殺害方法になぞらえて起きていることに気付く。奇しくも前クールの月9『ミステリと言う勿れ』でもそのタイトルが取り上げられていたエラリー・クイーンの『Yの悲劇』へと繋げ、一つの仮説を見出す。こうした有名ミステリを、モチーフというよりは一種のミスリードの材料として扱う点はなかなかに興味深くある。

 それ以上に興味深いのは、今回のエピソードの一つのトピックでもある「ミステリ小説(あるいはフィクションで描写される犯罪の手口)は殺人教唆になるのか」という点である。当然のように、特定の人物に殺人行為を教唆する目的で書いた/読ませたものでない限りは成立する可能性は低いわけだが、考え方によっては手口を教えるという点で幇助にはなるのだろうかとも考えをめぐらせたくなってしまう。それもまた一概に言い切れない部分であるため何とも言い難いが、そうした問いをミステリードラマにおいて主題的に描き、そこに終盤、物語の“リアリティー”という部分でせめぎ合いを生じさせる。探偵ドラマでも刑事ドラマでもない、限りなくミステリ好きが繰り広げる推理劇である以上、このトピックをより煮詰めたら絶品が生まれるような気がしてならない。

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