『牛首村』でスクリーンデビュー、初主演&1人2役 koki,の役者としての可能性

 清水崇監督による「恐怖の村」シリーズの3作目となる『牛首村』は、実在する心霊スポット「坪野鉱泉」を舞台にした作品だ。映画は冒頭から高校生のアキナ(大谷凜香)とミツキ(莉子)が坪野鉱泉として知られる、廃ホテル「旧ホテル坪野」でライブ配信中、同行していた同級生の詩音がエレベーターに入り、神隠しに遭うという怒涛の展開が繰り広げられる。迫力も緊張感も満点なシーンからカメラが次に捉えたのが、本作でスクリーンデビューを果たしただけでなく、主演デビュー、さらには1人2役という難題に挑戦したkoki,である。

 本作では、koki,演じる主人公・奏音が、彼女に恋心を寄せる同級生・香月蓮(萩原利久)から、冒頭の配信映像を見させられる。そこに一瞬映る失踪した女学生(詩音)の顔が自分に瓜二つであるということ、そして自身の周りで起きる奇妙な出来事や手首の“傷”が気になった彼女は、 “呼ばれる”ようにして動画撮影地となった坪野鉱泉に赴くのであった。同行する蓮は「ドッペルゲンガーではないか」と疑っていたが、蓋を開けてみると詩音と奏音は双子で、それゆえに特別な“リンク”を共有していたというわけだ。

 ホラー映画に欠かせない、というより「その作品に恐怖を感じる」のに欠かせない存在、それは役者だ。もちろん、丁寧に作られた物語や、ゾッとさせられるような演出など、人を怖がらせる手法は多岐にわたって存在する。しかし、結局のところその恐怖の中にいる人物、つまりキャラクターがそれに対して怯え、恐怖を感じていなければ、怖いはずの物語も演出も、幽霊も怖くないものになってしまう。だからこそ、その恐怖を観客に伝える唯一の存在が役であり、演じる役者の力量にかかっていると言っても過言ではないのだ。

 そして、koki,は恐らく「恐怖の村」シリーズの中で最もそれに成功した役者だ。その緊張感、不安、苛立ち、悲しみ、恐怖……全ての感情が彼女の瞳やまぶた、眉間の動きから読み取れる。表情のこわばり方はかなり自然で、「人が何か強い感情を抱いた時」のリアクションとして説得力のあるものだった。なにより、役者としての彼女を見るのは初めてなのに、序盤から「大丈夫そうだ」と思わせる安定感の凄みがあるのだ。

 夜な夜な見る奇怪なビジョンも、身に覚えのない傷も、誰かに話したところで仕方ないからというように、自分の内に留めておく強さを持つ奏音。しかし、物語が進むにつれてそんな彼女が不安に耐えられなさそうになっていく。駅のホームで地元の青年・将太(高橋文哉)の感情の吐露を聞くシーンでは、本来は話している人物にカメラのフォーカスがあたるはずなのに、彼と蓮のやりとりを今にも崩れそうな様子で必死に恐怖に耐えているkoki,の表情を捉えて離さない。ここに、先述のホラー映画における恐怖描写の本質を感じることができたのだ。良い俳優がいれば、ただその人物の表情を映していること、それが一番効果的にその状況を他者に共感させ、理解させる方法なのだと。

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