『妻、小学生になる。』は残像の物語? 誰もが抱える、書き換えられない人生のストーリー

 時は流れる。長い時間が経てば、目の前にある商品はリニューアルされ、やがて人も変わっていく。しかし、その大きな流れの中で、新たな“定番”として誰かの中に何かを残すことができたのなら。私たちは生きた甲斐があった、なんて思えるのかもしれない。

 金曜ドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)第6話は、死後10年を経て新島貴恵(石田ゆり子)が白石万理華(毎田暖乃)として生まれ変わったこと、そして起こしてきた小さな言動が着実に周囲の人々に変化をもたらしていることを実感する回となった。

 最愛の妻に先立たれゾンビのように日々を過ごしていた圭介(堤真一)は、もういない。職場の上司となる守屋(森田望智)を支え、リニューアルするトマト缶の「新定番レシピ」キャンペーンも自ら行動を起こすことでピンチを乗り切ってみせる。さらに、寺カフェに集まるおなじみのメンバーを招くバーベキューの幹事までこなしていくバイタリティも。

 もちろん、すべては貴恵のアシストがあってこそ。だが、以前は1から10まで貴恵が手掛けていたであろう部分も「小学生なのよ」と言われると、自分でなんとかしなきゃという気持ちも高まるというもの。これまで貴恵が担っていた“温かな新島家の中心”が、圭介自身に変わっていることに本人はまだ気づいていないのだろう。だが“定番”とは振り返ればいつの間にか定着しているもの。貴恵の想いを受け継ぐ形で、圭介の愛されキャラを前提とした“新島家の新定番”となっていくのだ。

 そして、その温かな新島家のもとに、気づけば多くの仲間が集うようになった。その中には、万理華の母・千嘉(吉田羊)の姿も。高校生のころアルバイト代をすべて母親によってパチンコですられてしまったという過去からも、千嘉が故郷にも頼ることができなかった孤独が伺える。家族のぬくもりを知らない。だから、ホームパーティーのようなバーベキューもどのように楽しめばいいのかわからなかったのだろう。

 だが、千嘉も変わり始めていた。これまで万理華にひどい言葉を投げかけてきたことを、貴恵に真正面から叱られたのが大きなターニングポイントになった。孤立していては間違いを正してもらう機会さえ得られない。自らの意思でバーベキューへと向かったことは、大きな大きな一歩だった。

 そして「お母さん」呼びをなかなかやめない圭介の存在も、苦々しい顔を浮かべてはいるが、いい影響を与えているように思う。万理華の保護者たちと距離を取っていた千嘉にとって、「お母さん」と呼ばれる機会は少なかった。

 圭介によって何度も何度も投げかけられるその言葉は、やがて「自分は万理華のお母さんなのだ」と身体に、心に染み付いていく。それこそ定番化だ。今の中身は貴恵だったとしても、万理華に向けてしてあげられることを「お母さん」としてやっていきたい、そう思わせているのは、この言葉の効力ではないだろうか。

関連記事