『劇場版 呪術廻戦 0』で知る狗巻棘の優しさ 乙骨憂太から学んだ“共闘”の道

乙骨から学んだ、“誰かと戦うこと”

 劇場版で描かれた1年生の頃、狗巻は学年で唯一の二級術師だった。そのため、単独での活動も許されている。商店街での初手から見るに、一人だけでも十分すぐに任務を遂行してしまうから、これまでも一人でアサインされることが多かったことだろう。しかし、だからこそかえって狗巻の任務に乙骨がサポートでついてきたことは、良かったかもしれない。商店街で突如現れた、予期しない(夏油が放った)呪霊が攻撃を仕掛けてきたときも真っ先に乙骨の安全を考えて突き飛ばし、代わりに自分の指を犠牲にした。

 その後も一人で立ち向かおうとするものの、喉を痛めて倒れてしまう。ワンオペでこれまで任務をこなしてきたからこそ、“誰かに頼る”ことにも慣れていないし、その場にいる誰かはいつだって“守る対象”だったのではないだろうか。乙骨に、怪我が大したことないよう着丈に振る舞い、のど薬を飲んでいないのに再び一人で戦いに向かおうとする。彼の様子を気にして追いかける乙骨のことも、片手で「大丈夫」とでも言うように制した。しかし、そこで乙骨が何とも言えない顔で俯き、「“ありがとう”、狗巻君」と言う。この「ありがとう」のセリフは、原作『0巻』でも強調されており、それを聞いた狗巻が目を見開いて驚いている様子が描かれている。そんな様子から、彼がその感謝の言葉を聞き慣れていないように思えるのだ。

 呪術師は、非呪術師にその身分を明かさないし(呪霊の存在を知られてはいけないから)“守ることが自分の当然の行い”なので、改めてそれを感謝されたことがあまりないのかもしれない。はたまた、「来るな」という割と強い拒絶の態度をとったにもかかわらず、その奥にある乙骨を守りたいという気持ちを組んでくれたことへの驚きかも知れない。なにせ、彼はこれまで誤解されてきたことも多いようだから。

 続けて乙骨が「二人で頑張ろう」というセリフも、狗巻にとっては新鮮だったに違いない。このシーンは、これまで孤独だった乙骨が初めて里香を顕在させずに自分の力で戦う場面であると同時に、仲間と戦うことを覚える場面だ。しかし、それは狗巻にとっても同じだ。彼は言ってしまえば高専時代の五条悟の立ち位置に近く、相手によってはほぼ一瞬でかたがついてしまう呪言の性質も相まって、単独で任務をこなすことが多かったからこそ仲間に頼ることも、共闘することも知らない。そんな彼に“乙骨が”チームワークを教えている場面でもある。だからこそ、二人が連携して呪霊を倒してハイタッチをする時の二人の表情が、なんだかすごく良いのだ。

 その後も、百鬼夜行では新宿で他の術師のサポートに回ったり、五条に乙骨を“死守しろ”と言われても、戸惑うことなく、むしろ力強い表情で高専に向かったりと大活躍した狗巻。2年生になってからも実は面倒見がよく、ときには悪ふざけもして(公式ファンブック曰く、好きなことは“悪ふざけ”)、基本的に無表情で言葉も少ないながらにたくさんの魅力を持ったキャラクターとして成長している。それに、髪型のせいかもしれないがどことなく雰囲気も柔らかくなった。真希もそうだが、乙骨が同級生に与えた影響はこういったところでも現れており、計り知れないものだと改めて実感させられるのであった。

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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