『ホーム・アローン』の笑いには“痛み”が伴う 愛され続ける映画に成長させた功労者とは?

 『ホーム・アローン』が日本で劇場公開されてから、ちょうど30年目の年。クリスマスが来るたび、いや真夏日でも構わず観たくなる瞬間が訪れ、呆れるほどに何回観ても飽きないのが逆にもはや怖い作品である。これまで地上波でも幾度となく放送されてきたが、実は今年の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)のように12月24日に地上波で放送される機会は貴重だ。まさに、クリスマス・ミラクル! 1990年代におけるコメディ映画で史上最も稼いだ本作は、子供の頃の気持ちを思い出させてくれる。マコーレー・カルキンの存在が、本作の最も愛される理由の一つであることは明白だが、何度観ても飽きない作品に仕立て上げたのは影の功労者……つまり、勇敢なスタントマンである。

 なんと言ったって、『ホーム・アローン』の笑いには“痛み”が伴う。少年ケビンが容赦なく、家に侵入しようとする二人の泥棒ハリー(ジョー・ペシ)とマーヴ(ダニエル・スターン)に制裁を加える様子は観ていて爽快だが、あの二人は本来なら2回は劇中で死んでいる。頚椎、胸椎、腰椎……。脊髄という脊髄を破壊するその攻撃をコメディとして、安心して大笑いできるのは2人のスタントマンの血の滲むような(本当に滲んでいたかもしれない……)努力のおかげだ。

 監督を務めたクリス・コロンバスは、あどけない少年のような優しい顔をしていて「痛ければ痛いほど、なぜか面白く見える」と、血に飢えていた。彼が『ホーム・アローン』で追求したコメディの形は、ある意味で『ルーニー・テューンズ』的なものであり、それは過激すぎる暴力が一定のラインを超えた先に笑いに変わる瞬間である。笑えるのは、どんな目に遭っても暴力のダメージがなかったことのように先に進んだり、死んだりしないからだ。ハリーとマーヴが最強であることも、ちゃんと笑いのために必要なことである。しかし、最も重要なのは“痛がってなければ意味がない”こと。頭をガスバーナーで燃やされても、ジョー・ペシが悪態をつきながら無表情で子供を追えば、それはもうスコセッシ映画だ。キッズが腹を抱えて笑い楽しめる『ホーム・アローン』じゃない。だから、何度観ても飽きさせない本作の見せ場である“戦争シーン”は、身体を痛ませながら平気でやってのけた2人のスタント、そして実際は痛くないけど “痛みを感じている”という説得力を持たせた2人の俳優の演技、そのどちらかでも欠けたらダメだったのだ。

 1990年全米公開の本作。プロダクション時はもちろん今と違ってCGIや特殊効果の技術も乏しかったため、劇中のあらゆる物が“リアル”に作られた。スタントも例外ではない。特にペシのスタントダブルを演じたトロイ・ブラウンは、何度も実際に後ろにひっくり返ることをしている。我々はそれを笑って観られるが、現場にいる制作陣には常に戦慄が走っていた。実際、大怪我に繋がりかねないからだ。Entertainment誌でのインタビューでコロンバスは以下のように当時のことを振り返っている。

「(皮肉なことに)スタントマンがスタントをやるたびに、笑えなかった。ひっくり返った彼らが立ち上がり、全く問題がないとわかると撮った映像を確認する。そこまで来てようやくリラックスして笑えるようになるんだ」

 Netflixオリジナルシリーズ『ボクらを作った映画たち』でのインタビューでは、コロンバスはスタント撮影の瞬間、怖すぎてカメラさえ見られなかったという。スタントマンのブラウンは何度も何度も、背中からひっくり返って転び続けた。特に、最も危険な撮影シーンだったと言われるのが、ケビンが階段の上からペンキを投げ、それに当たって二人がひっくり返るあの場面。もちろんスタントマンの安全のためにペンキ缶はゴム製のものを使われているが、それでもあの高さから後ろを見ずに転ぶのは危なすぎる。ブラウンは同番組内で当時のスタントを振り返り、「楽しかった」と笑顔で答えていた。ワイルドすぎる。

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