中野翠咲&古川凛、『カムカムエヴリバディ』に奥行きもたらす“2人のるい”の活躍

 「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽も自由に聴ける。僕らの子どもには、そんな世界を生きてほしい。ひなたの道を歩いてほしい」。そんな意味を込めて、稔(松村北斗)が名付けた“るい”という名前。その願いのとおり、るいは英会話が大好きな女の子に成長した。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)では、その成長過程に合わせ、数々の子役たちが“るい”役を担っている。

 第24話からるいを演じたのが、子役の中野翠咲。彼女の初登場は、安子(上白石萌音)が作ったあんこの香りを吸い込み、にっこりと微笑むシーンだった。この笑顔に、父である稔を彷彿とさせた人もいるのではないだろうか。愛らしい瞳に、賢そうな雰囲気。少し照れたようなはにかみまで、見事にそっくりだ。稔の下宿先の大家(若井みどり)が思わず、「お父さんにそっくりやなぁ」とつぶやくほど、父の面影を残するい。彼女を見ていると、かけがえのない命のつながりを感じる。稔は、もうこの世にはいないかもしれない。それでも、彼の遺伝子を受け継いだ娘の存在が、たしかにある。その事実が、どれほど安子の救いになったか。

 中野の持ち味である屈託のない笑顔も、作中のさまざまな場面で活きていた。「どれだけ辛くても、顔をあげて前を見て、ひなたの道を歩いていく」と誓い、岡山を出た安子。雉真の家にいた時とちがい、母娘2人の生活は決して裕福ではない。それでも、るいの笑顔を見ていると、これまでの日々が幸せだったことが伝わってくる。ひなたの道を歩いている者にしか、浮かべることができない心の底からの笑顔。きっとるいは、“ひなた”の部分しか見ずに育ってきたのだろう。安子が必死に、“日陰”の部分を隠してきたのかもしれない。中野は、作中で描かれていない生活も想像できるような、奥行きのある演技をする女優である。

 そんなるいが、“日陰”の存在に向き合うようになるのは、岡山の雉真の家に戻ってから。これまで、楽しく聴いていたカムカム英語が、岡山では「悪」として扱われるようになる。「稔を殺した国の言葉は、聴きとうねぇんじゃ」と言い、ラジオを切る美都里(YOU)。さらに、安子と一緒におはぎを売ることさえ許されない。「なんで私は、カムカム英語聴きおるん?」「なんでお母さんと一緒に、おはぎゅう売ったらあかんの?」「なんでお母さん、私をここに連れてきたん?」ーー。天真爛漫だったるいが、第28話あたりから“現実”と向き合い始める。その瞬間の、中野の表情の変化に凄みを感じた。

 それまでのるいは、どこかフワフワとしていた。おそらく、岡山での生活が彼女にとっての“現実”ではなかったのだろう。安子に、「わがまま言うんじゃねぇ!」と怒られても、首を傾げていたり。置かれている状況を理解していない……という表現をしていた。だが、雪衣(岡田結実)に、「安子さんは、女手ひとつでるいちゃんを育てることを諦めて、雉真家にお返ししようと決めたんじゃと思います」と言われた時に、すべてのピースがハマってしまったのだろう。安子に「いい子にしとった?」と聞かれ、答えられなかったるいの顔。“お返し”という言葉の意味を、悟ってしまったことが伝わってきた。

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