『ウエスト・サイド・ストーリー』北米1位も苦戦 ミュージカル映画の不発が続く?

 いよいよホリデーシーズンの大作ラッシュがやってきた。昨年(2020年)は『ワンダーウーマン 1984』や『モンスターハンター』こそあったものの、コロナ禍の先行きが不透明な中、映画業界は暗中模索を強いられていたが、今年は様子が違う。これから年末にかけて、多くの話題作が毎週公開されていくのだ。

 2021年12月10日~12日の北米興行収入を制したのは、巨匠スティーヴン・スピルバーグの最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』。計2820館で公開され、3日間での興行収入は1050万ドルを記録した。

 原作はブロードウェイ・ミュージカルの古典的傑作で、先日逝去したスティーヴン・ソンドハイムが作詞を担当、またレナード・バーンスタインが作曲を務めた。1961年の映画版も傑作として名高く、舞台を知らずとも映画版は知っている観客も少なくないだろう。2度目の映画化となった本作は、当初は2020年12月に北米公開予定だったが、コロナ禍のために公開を1年延期。1961年版の公開60周年に合わせての封切りとなった。

 しかしながら、『ウエスト・サイド・ストーリー』の1050万ドルという初動記録はかなり厳しいものだ。製作費1億ドル以上、また広報宣伝費にも相当の予算が投入されているうえ、本作は劇場独占公開作品である。同じくラティーノ&ヒスパニックを描いたブロードウェイ・ミュージカルの映画版『イン・ザ・ハイツ』が、HBO Maxでの同時配信にもかかわらず、3456館で1150万ドルという初動記録だったことを鑑みれば、その苦戦ぶりがうかがえる。そもそも『イン・ザ・ハイツ』でさえ、興行的に成功したとは言いがたかったのである。

 『ウエスト・サイド・ストーリー』と『イン・ザ・ハイツ』の共通点は、ともに作品としては高い評価を受けていることだ。『ウエスト・サイド・ストーリー』は米Rotten Tomatoesで批評家スコア93%、観客スコア94%を記録。CinemaScoreでもA評価を獲得したほか、観客の出口調査では88%が肯定的評価を示し、70%が「強く勧める」と回答したという。

 コロナ禍以前の映画業界であれば、こうした作品は口コミで少しずつ動員を伸ばし、興行を短期決戦ではなく長期戦で考えることも考えられた。しかし現在、スタジオ各社は劇場公開が一段落した後、すぐに配信サービスへと配給形態を切り替える傾向にある。20世紀スタジオを有するウォルト・ディズニー・カンパニーは特にその傾向が強く、10月15日公開『最後の決闘裁判』はディズニープラスにて12月1日に見放題配信が開始された。また、マーベル・スタジオ作品『エターナルズ』も2022年1月12日に同様の扱いとなる(筆者注:『最後の決闘裁判』は日本の場合。『エターナルズ』は米国配信日が告知された段階だが、同日より世界同時展開となる可能性は非常に高い)。

 今後、『ウエスト・サイド・ストーリー』が北米の映画館でどのような推移をたどるかは未知数だ。しかし昨今の情勢を踏まえれば、配信への早期の切り替えはほぼ既定路線であり、日本公開日の2022年2月11日ごろには、すでに本国で見放題配信が始まっているということも大いに考えられる。

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