『メイドの手帖』になぜ、世界中が目を向ける? 妥協をゆるさない作り手たちの克明さ

 Netflixリミテッドシリーズ『メイドの手帖』がヒット中だ。Netflixが発表する“ビューポイント”(各作品が最低2分以上視聴されたユーザー数)において本作は2021年10月1日にリリースされた公開初月で6700万ユーザーを獲得、昨年「Netflixリミテッドシリーズ史上最も成功した作品」とも称された『クイーンズ・ギャンビット』の初月ビューポイント(6200万ユーザー)を上回る記録を打ち立てた。※1

 タイトルにある“メイド”とは、本作の主人公・アレックス(マーガレット・クアリー)を指している。夫から精神的DVを受けていたアレックスは、ある晩3歳の娘を抱えてトレーラーハウスを飛び出す。職も無いなか一日一日を生き延びるためにメイド(家庭内清掃員)となった彼女は、ほぼ最低賃金で家々の清掃業務にあたり、そこで垣間見られる人々の暮らしを手帖に綴り始める。

 “メイド”として低賃金労働をしながら爪に火を灯すような生活を送るシングルマザーを描いた本作に、SNS上では「見進めるのが辛い」「何度も挫折しそうになる」といった感想も目立つ。しかし一方で、公開から1カ月以上が経つ11月20日現在も、Netflix TVシリーズのグローバルランキングでTOP3にランクインしている状況もみられる。※2 辛くなるような物語ながら、世界中の人々がいま目を向けたくなる――『メイドの手帖』とは、そんな作品だ。

 本作において特筆すべきは、貧困を取り巻くメンタルヘルスの問題を取り扱っている点である。

 アルコール依存症を抱える夫の脅威から自らと娘の身を守るために家を飛び出したアレックス。しかし政府からの生活援助を受けようとしたさい阻まれるのは、彼女が受けていたのが痣や傷といった“暴力の跡”の残らない精神的虐待であったということ。それどころか、彼女自身も虐待を受けていたことを自覚しておらず、ソーシャルワーカーとの対話によって気づかされる。

 この一連は、精神的暴力に対し理解が進まない社会のありよう、そして深刻な立場に身を置きながら助けを求められない被害者の多さについて物語っている。

 また、この問題はアレックス個人のみならず、世代間で受け継がれるものとして描かれている。幼い娘を育てながらギリギリの生活を送るアレックスは、だんだんと母・ポーラ(アンディ・マクダウェル)が現在の自分と同じ運命を辿っていたことに気づいていく。元夫の暴力から娘と自らを守ろうとするも社会的自立を拒まれたポーラは、双極性障害であることを自覚しないまま路上生活を続けているのだ。

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