『最愛』松下洸平から溢れ出た大輝の苦しみ 未だ閉ざされるブラックボックス

 金曜ドラマ『最愛』(TBS系)では、場面転換時にブラックボックスのモチーフが登場する。開きかけてパタリと固く閉じてしまう黒い箱。それは、梨央(吉高由里子)が秘密にしておきたい過去とも、弟の優(高橋文哉)が思い出したくない真相とも、大輝(松下洸平)がいまでは表に出すことのできない愛情とも見える。

 届きそうで届かない真実を前に、次々と紐解かれる記憶と見つかっていく記録。第5話では、人の記憶のあやふやさを正す記録さえも、また記憶を混乱させるものになるうるのだという脆さを浮き彫りにしていく。

 優は、渡辺康介(朝井大智)を刺したことも、父親の昭(酒向芳)の首を締めて池に突き落としたことも覚えていないが、自分でも認めざるを得ない映像がしっかりと残されていた。だが、いずれも絶命するところまで映っているわけではない。

 梨央もそして私たち視聴者にも「本当は別の真犯人がいるのでは?」という淡い期待を抱かせる。きっと動画を何度も見返し、事件現場に足を運んでいた加瀬(井浦新)も、その映っていないまだブラックボックスの中にあるものを見つけ出そうとしていたのではないだろうか。

 まだ優の罪を認めたくない梨央は、自首を覚悟する優を引き止め、一緒に故郷の白川郷へと行こうと誘う。それは忌まわしい記憶によって引き裂かれた姉弟の束の間の逃避行。もうすっかり梨央の背を抜かすほどの長身になった優が、高速バスの車内ではそっと梨央の肩にもたれかかる。それは梨央が優を東京に連れて行こうとして肩を抱き寄せたあの日を思い出させ、まるで優の夢のなかに出てくる姉の視線の高さを噛みしめるかのように見えた。

 それは、二度と戻らないと覚悟していた最愛の時間。そして長い間、大きな秘密を2人だけで抱えてきた姉弟は、父・達雄(光石研)が最期にどんな気持ちで過ごしていたのかと古いパソコンを立ち上げる。それは、梨央、優、大輝のブラックボックスをこじ開けるのに十分なキーだった。

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