『おかえりモネ』菅波先生、納得できないのはこっちです! 数々のフラグを回収する名脚本

 春に入社した百音(清原果耶)も一つ季節が過ぎ去ると、おぼこい前髪が伸びてすっかり大人っぽい雰囲気になっていた。『おかえりモネ』(NHK総合)第54話では、普段から真面目な彼女だからこそ突っ走ってしまう、ある意味“新人あるある”が描かれていた。

 オリンピックで金メダル獲得というタイムリーな話題が飛び込んでくると同時に入った、冠水事故の情報。局地的な大雨によって、新しく作られたアンダーパスで乗用車が冠水し死亡者が出てしまったのだ。開通したばかりで、過去の大雨の事例も集まっていない。加えて、自然の地形ならそういったデータを参考にしやすいが、都会は新しいビルや建造物が建ち続け、空間的な狭さもあって予測が立てにくい。風担当の内田(清水尋也)は、この事故を受けて気象予報士の仕事の責任について改めて考え直す。

 彼らがカバーする範囲は広く、関わってくるのは命だ。その恐怖と朝岡(西島秀俊)の「水ですね。水の動きを見極めなければこのさき災害は防げない」という言葉を、誰よりも重く受け止めたのは地元が津波に襲われた経験を持つ百音。莉子(今田美桜)との中継コーナーの小咄を任されている彼女は、それから水の怖さばかりに焦点を当てた、シリアストーンの企画ばかりあげるようになる。

 これは、百音に限らず多くの真面目な新人がやりがちなことだと思う。会社に入りたてで、最初は不慣れだったけど数カ月したら慣れてきた頃。自分も何か役に立ちたい、何かできるようになってきたという実感と使命感が湧いてくるタイミングだ。だからこそ、こういう新人のときは地味にちょっと譲れないところが出てきて、先輩の意見を正面から受け止められず頑固に頑張っちゃうところがあるよな、と我が身も振り返りつつふと思う。子供たちが自然に触れたくなるような明るい話題がいいと言われても、「何か事故があってからでは遅い!」と、上司に対しても少し怖い顔で反論してしまうところとか。しかし、それだけ百音が真剣に仕事を頑張っているという証拠でもあって、決してそれは間違いではない。

 朝岡はそれを優しく、しかしちゃんと百音自身が理解できるように視聴者のメールというエビデンスを用いて百音に助言する。しかもその言葉が、今週の「相手を知れば怖くない」に繋がってくる。

「人はわからないものを怖がる。逆によく知ってさえいれば、たとえ牙を向けられても距離を置ける。相手を知ることは、恐怖と被害を遠ざける。最初から怖いと思ったら近づくこともないし、そうすると得体の知れない恐怖と戦うことになって間違った対処をしてしまう。知っているからこそ、逃げるタイミングがわかる」

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