2021年は菅田将暉イヤーに! スターにもバイプレイヤーにもなれる、特異な才能を読む

 それが最も顕著に現れていたのはやはり、キネマ旬報ベスト・テンから日本アカデミー賞に至るまであらゆる映画賞を総なめにした『あゝ、荒野』だろう。前後篇あわせて約5時間に及ぶ長尺の中にありとあらゆるテーマが詰め込まれており、当然キャストが優れていなければ保たれないし、だからといって1人のスターパワーで押し通せるはずもない。菅田はそのなかでヤン・イクチュンとW主演を張り、共演者たちの魅力をしっかりと引き出しながらもここぞという時に観客をぐっと惹きつける爆発力をもって寺山修司の精神性を体現していく。『前篇』のクライマックスの時点で、もうこの俳優に不可能はないのだと確証が持てたほどだ。

『あゝ、荒野』(c)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

 インパクトのある役柄ならば、そこにのめり込むようにして入り我が物にする。そうでない役柄であれば自然体にこなし、作品全体の偏差値を高める役割を果たす。森川葵と共演し、フェデリコ・フェリーニの『道』にオマージュを捧げた『チョコリエッタ』でのちょっと変わった先輩役や、同世代の俳優たちと共演して切磋琢磨する姿を映した『キセキ 〜あの日のソビト〜』あたりがその代表的な例か。シンプルな役柄の中に「本来の菅田将暉はこういう雰囲気なのだろうか」と思える瞬間が何度も見え隠れするのだから興味が尽きない。前述した『あゝ、荒野』で役作りのために増量したというエピソードがあったから言うわけではないが、まるでロバート・デ・ニーロのような俳優という表現が一番しっくりくる。

 もちろんその才は、スクリーンだけでなくテレビドラマにおいても健在だ。『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)の柊一颯しかり、『MIU404』(TBS系)の久住しかり。むしろそういったインパクトのある役柄が続いたからこそ、現在の『コントが始まる』でのこの上なくナチュラルな素振りが魅力的に見えるのだろう。ここでもまた、プライベートでも親友という仲野太賀と繰り広げる、アドリブなのか台本通りなのかわからない絶妙な掛け合いに自然体な空気が宿り、それが作品をおもしろくおかしく見せていく。しかも共同生活する部屋のシーンで上半身裸でウロウロしているときに見せる、『あゝ、荒野』の時とはまるで違う、いかにも栄養状態の足りなそうな肉体。そんな些細なところにまで売れない芸人っぽさを表現しているのか。

 2021年という“菅田将暉イヤー”はまだ折り返し地点にも立っておらず、下半期もまだまだ続く。山田洋次監督が手がける『キネマの神様』では、志村けんに代わって沢田研二が演じる主人公の青年時代を演じ、10月には20年以上前にカルト的人気を博した『CUBE』の日本リメイク版で主演を張る。そんなことを書いていたら、ちょうど来年1月から放送されるドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)で月9初主演を果たすという報せが。来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源義経役を演じることも決まっているので、もしかすると“菅田将暉イヤー”は2022年も続くのかもしれない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
『コントが始まる』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:菅田将暉、有村架純、仲野太賀、古川琴音、神木隆之介
脚本:金子茂樹
演出:猪股隆一、金井紘(storyboard)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE/Warner Music Japan)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
公式Twitter:@conpaji_ntv

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