『おちょやん』福助とみつえに訪れた「赤紙」 朝ドラ、戦争フェーズへ突入

 昭和16年の暮れに太平洋戦争が始まった。初めは勝利を収めていた日本だったが、戦況は大きく変わり、道頓堀の賑わいが次第に影を潜めていく。

 昭和19年1月、鶴亀家庭劇は愛国ものの芝居を続けていたが、客足はまばらだ。NHK連続テレビ小説『おちょやん』が第17週初日を迎え、招集されることになった福助(井上拓哉)や、彼を送り出さなければならないみつえ(東野絢香)の印象的な表情から、戦争に向き合うそれぞれの思いが伝わる回となった。

 岡安へやってきたみつえはシズ(篠原涼子)と宗助(名倉潤)に「うちの人来てへん?」と福助の所在を聞く。いないことを知るとみつえは「あのあかんたれ」とぼやく。だが、シズと宗助に何か言いたげな表情を見せながらも、無言のまま立ち尽くすみつえの様子からは、ただならぬ予感がする。

 福助は千代(杉咲花)と一平(成田凌)の家にいた。栗ようかんを手土産にやってきた福助は、千代らと談笑する最中、「来てん、赤紙」と告げる。

 千代らに「栗ようかん食べたな」「ほな僕の言うことも聞いてもらうで」と言う福助からは、普段通りのちゃっかり者な雰囲気が感じられたが、福助の本心は違う。福助は姿勢を正すと、千代らの目を凝然として見つめ「みつえと一福(歳内王太)のこと、よろしゅう頼んます」「僕のいてへん間どうか2人のこと……」と深く頭を下げる。福助の力強い目つきとはっきりした口ぶりから、残される家族への思いと戦地へ向かう覚悟がひしひしと伝わってくる。

 福助のいない場で、みつえは福助について「情けない」「あないな人召集しても何の役にも立てへんのに」と口にするが、みつえは涙を堪えていた。頑なに表情を崩さないみつえの姿が切ない。

 第81話では、みつえと福助がお互いに家族を思う気持ちだけでなく、みつえは福助を送り出し、福助は戦地に赴くという選択肢しかない時代背景をも感じさせるものだった。また物語冒頭、ナレーションにより「何があろうと勝利の日まで頑張ろうと、多くの国民が戦争に向き合っていた」と語られる。そのシーンでは、戦時下の教育を受ける一福が鋭い眼光を見せていた。実際に戦地に赴く福助と一福の目の対比に、戦争への向き合い方に歪みを生じさせた戦争の恐ろしさを感じた。

 第17週のタイトルが「うちの守りたかった家庭劇」と過去形で綴られていることに不安な気持ちになる。物語終盤では、シズが岡安を閉めることを口にした。『おちょやん』公式Twitterには“大切なものが容赦なく奪われていく時代”とある。

 大切な家族、守り続けてきた芝居小屋、戦争は千代たちから何を奪っていくのか。時代背景が共通している前作『エール』では生々しい戦場の様子が描かれた。胸が締め付けられる描写が続くかもしれないが、『おちょやん』が描く戦争を見届けたい。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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