『おちょやん』で近年屈指のカリスマ性を発揮 杉咲花、“朝ドラヒロイン”としての魅力
また、千代といえば関西弁で元気一杯のコミカルさ。ツッコミ満載の日常のやりとりだけでなく、須賀廼家千之助(星田英利)を笑わすために体を張った芸や、舞台稽古での下手な演技の演技では、様々な失敗例をアドリブのように見せ、また舞台でファーストキスが奪われた後の、心ここに在らずのボーッとした演技など、ピュアな存在をどこかコントのように見せていく面白さも関西朝ドラらしさが存分に出ている。
そうした千代の普段の明るい表情があるからこそ、1人になった時の思いつめた表情に心が奪われる。京都に流れ着いた時に、女優スカウト詐欺にあい、人前では平然とするも、1人になった時に暗いカフェで悔し涙を見せる時の演技。単に泣き叫ぶのではなく、必死に京都に辿り着き、わずかな希望が持てたのに裏切られたことで、緊張の糸が緩んだ瞬間に出た涙は、本当に悔しさが伝わり、視聴者みんなが励ましたくなったのではないだろうか。
そして、とにかくエモーショナルになったときの杉咲の演技が凄まじい。例えば、父の借金で岡安に迷惑をかけている千代が、舞台に急遽借り出され、セリフが飛んだ時に咄嗟に出た「ずっとここにいてたい」という心の叫びが、“演技を超えた演技”を見事に見せた。元々、熱い感情も持った演技と、ささやくような声が魅力的な杉咲は、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』やドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)など、感情むき出しで、気持ちを爆発させるシリアスな役を得意としているだけに、エモーショナルな千代は杉咲の得意分野だったりする。
そんなエモーションの爆発に至るまでには、コミカルな演技や葛藤、周りの人たちの思いが前提にあるからこそ、“千代ちゃん”の感情の爆発が心に響く。そんなみんなの視線を一身に集める力と、ドラマを座長として牽引する魅力は、最近の朝ドラのヒロインの中では群を抜いたカリスマ性を感じる。それでいて身近にも感じるのは、杉咲が国民的女優の1人になった証拠だろう。
ただ役柄として一つ難点なのが、恋愛や父親など、自分のプライベートなことに関しては余裕がなくなること。後半戦ではおそらく結婚し、劇団や家族など、シズや千鳥が背負っていたような責任感を千代も背負うことになっていく。その立場になったとき、千代はどうするのか。大人になるにつれ、これまでの感情豊かな演技が難しくなるだろう。そして幸せになると必ず破壊しに訪れる父・テルヲ(トータス松本)、弟との今後も心配だ。前半は杉咲の女優人生の集大成と言うべき演技を見せていただけに、後半は「大阪のお母さん」と呼ばれる女優になっていく変化を杉咲はどう見せていくのか。実年齢より上を演じる杉咲の新しい扉を開く演技に期待だ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/