松下洸平は“水”のような俳優だ 大ブレイクの前にあった舞台での積み重ね

 “バタフライエフェクト”という現象をご存知だろうか。

 ある気象学者の講演タイトル「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか」から生まれた造語で、些細なことが発端となり、別の場所に多大な影響を及ぼす現象をいう。

 ドラマ『知ってるワイフ』(フジテレビ系)で、妻との生活に限界を感じた元春(大倉忠義)は、謎の男(生瀬勝久)からもらったコインを使い10年前にタイムスリップ。妻・澪(広瀬アリス)との出会いをスルーして、大学時代に自分に想いを寄せていた大企業グループ会長の娘・沙也佳(瀧本美織)と結婚する。

 この元春の行動で未来が変わった人物がいる。銀行の同僚・津山千晴(松下洸平)だ。変わる前の世界では双子の父親だった津山だが、10年前にタイムスリップした元春が、先にタクシーを停めた津山を押しのけ、自分が車に乗ってしまったため、津山は空港に向かえず恋人と破局。現在の彼は双子の父親どころか独身のまま。元春の小さな行動が引き起こした“バタフライエフェクト”で、人生が変わってしまった1人である。

 元春と沙也佳の結婚で独身になった澪は、元春や津山のいる銀行に配属され、3人は同僚となる。明るく前向きに仕事をこなす澪に惹かれる津山。ツーショットの激辛タイ料理ランチではなかなか良い雰囲気にも見えた津山と澪だが、今後、進展はあるのだろうか。

 さて、ここからは津山を演じる松下洸平にフォーカスしたい。

 2019年下半期の朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)八郎役で大ブレイクを果たした松下だが、俳優としてのキャリアは約12年。絵を描きながら歌うペインティング・シンガーソングライターとしてライブ活動をしていた彼が、本格的に芝居の世界に足を踏み入れたのは2009年。AAAの西島隆弘らと出演したミュージカル『グローリー・デイズ』がきっかけだった。

 2012年ごろからは映像の現場にも進出。が、ドラマ畑ですぐに花開いたというよりは、さまざまな作品に出演し、地道に一歩ずつ歩んでいる俳優というのが当時の印象かもしれない。

 かわって舞台では、登場人物が2人のミュージカル『スリル・ミー』や、手塚治虫原作のストレートプレイ『アドルフに告ぐ』、キース・へリングの生涯を描いた『ラディアント・ベイビー』等の作品でメキメキと頭角を現していく。

 松下にとってひとつの転機となった舞台が、沖縄での実話を基に井上ひさしが原案を起こし、蓬莱竜太が劇作を担った『木の上の軍隊』新兵役。舞台上に建て込まれた巨大なガジュマルの木の上で、上官(山西惇)と新兵ふたりの対話のみで展開する濃密なせりふ劇だ。

 自分が育った島に本土から軍隊がやってきて、まったく違う価値観を持つ上官と木の上に隠れてともに戦うという新兵役を、松下は泥臭く、そして純朴に演じ、高い評価を得た。

 この時、彼に単独インタビューをさせてもらったのだが、まず感じたのが非常に自然体であること。初演で藤原竜也が演じた新兵役に対し、気負うことなく淡々ともいえる口調で、誠実に想いを語る姿に打たれた。稽古前には作品の舞台となった沖縄・伊江島を訪れ、島の人の話を聞き、ガジュマルの木を見上げたそうである。また、とにかく家に無駄なものを置くのが嫌で趣味は断捨離。膨大なせりふを覚える際は、ひたすら歩くと聞いたことも印象に残る。

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