原点に立ち返った新しい『スター・ウォーズ』 『マンダロリアン』が高評価を得た理由を解説

 また、近年活躍が目覚ましい作曲家ルドウィグ・ゴランソンによるテーマ曲が象徴するように、本シリーズの雰囲気はマカロニ・ウェスタン調である。もともと『スター・ウォーズ』は、ルークたちジェダイが象徴する、日本の時代劇における侍や、西洋の騎士道などを思い起こさせるストーリーが中心となりながらも、同時にハン・ソロやボバ・フェットの活躍に代表される娯楽西部劇のテイストも含まれていた。本シリーズは、『スター・ウォーズ』のそちら側の世界をフィーチャーしているのだ。

 そして、凄腕の男が子どもを連れて旅をするという設定は、日本の漫画『子連れ狼』にもそっくりだ。アメリカでも『子連れ狼』は人気があり、それを基にしたと思われる、大恐慌時代のシカゴを舞台に子連れのギャングが死闘を繰り広げるグラフィックノベル『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)は、実写化もされている。このテイストは、もともと新三部作『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002年)において、ジャンゴ・フェットとボバ・フェットのコンビというかたちで、すでに見られていた。

 このように、忍者のようにかっこいいバウンティハンターと、新3部作などのデザインを担当したダグ・チャンによってデザインされた、空中に浮いている乳母車に乗ったかわいい子どものコンビが毎回活躍するという設定は、それぞれが視聴者層の幅を広げ、作品の魅力を強くしているといえよう。

 本シリーズ製作の中心人物となっているのが、まずジョン・ファヴローだ。彼は監督として『アイアンマン』(2008年)、『アイアンマン2』(2010年)を手がけ、マーベル・スタジオ作品ブームの起爆剤となった存在であるとともに、近年はディズニー・クラシックの実写化シリーズ『ジャングル・ブック』(2016年)や『ライオン・キング』(2019年)で、全面的にCGを駆使した作品を手掛けている。その一方で、映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014年)のように、平凡な人物を主人公にした人間ドラマも撮り上げている。

 もう一人の立役者は、デイブ・フィローニ。彼はもともと『スター・ウォーズ』の熱狂的なファンであり、ディズニーがルーカスフィルムを買収する前から、ルーカスフィルムでTVアニメーション『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』シリーズの総監督を務めている。実写ではないものの、こだわりの設定や世界観への深い理解によって、ファンの人気が高い作品だ。フィローニは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)でコンセプトアートなどを手掛けてはいるが、実写の『スター・ウォーズ』製作に本格的に関わったのは本シリーズが初。彼の存在が、『マンダロリアン』を『スター・ウォーズ』の世界につなぎとめている。

 そんなデイブ・フィローニや、ジョン・ファヴロー自身も、数あるエピソードの一部で監督を務めるほか、ロン・ハワードを父に持つ、俳優でもあるブライス・ダラス・ハワード監督、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)や『ジョジョ・ラビット』(2019年)のタイカ・ワイティティ監督、『ロッキー』シリーズでアポロ・クリードを演じていたカール・ウェザース監督、『アントマン』シリーズのペイトン・リード監督、『デスペラード』(1995年)や『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)などのロバート・ロドリゲス監督など、本シリーズは、おそろしく豪華な監督たちによって演出されている。また、“ザ・チャイルド”を手に入れようと依頼する抜け目のない“クライアント”を演じている、映画監督として輝かしいキャリアを持つヴェルナー・ヘルツォークの存在感も素晴らしい。

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