役者・菊池風磨の魅力は綿密に作り上げられた“人物像”にあり 『バベル九朔』でさらなる挑戦へ

 役者・菊池風磨を語るにあたって、2016年『時をかける少女』(日本テレビ系)で演じた深町翔平(ケン・ソゴル)役を避けては通れない。先述した『スクラップ・ティーチャー』以来、約8年ぶりに出演した日テレ土9枠。「成長した姿を見せたい」(※同作放送決定時に寄せた公式コメントより)と菊池自身、意欲的な姿勢を見せていた作品だ。

 菊池は本作出演にあたり、高校生特有の「線の細さ」を出すべく、クランクインの2カ月前から食事制限やトレーニングを実施。自身の高校時代と同じ58Kgまで身体を絞って撮影に臨んだ(参照:『ザ・テレビジョンZoom』vol.25、『TV fan CROSS』vol.19)。

 幼なじみ特有の自然な空気感を作るべく、主演の黒島結菜、共演の竹内涼真とは、敬語を使わない約束を交わしたという。3人のシーンでは初日からアドリブを入れ、等身大の演技を見せた。

 “青春フェチ”を公言する菊池が表現した、青春と恋、そして夏。それはあまりにも眩しくほろ苦く、パッと咲いて消える花火のように美しかった。最終話、高畑淳子演じる仮の母との最後の食卓で見せた涙も印象的だ。本筋である「恋」だけでなく、翔平を構成するすべての要素を、菊池は丁寧に演じていた。

 放送から約4年が経った今なお、ふと思い出しては切なくなる物語。どうやら翔平は、夏も恋も、私たちの心も、持って行ってしまったみたいだ。

 菊池はとてもクレバーな人間だと常々感じる。芝居に対してもそうで、与えられた役を理解、咀嚼し、あらかじめ綿密な「人物像」を作り上げる。それこそ、体型や髪型、声のトーンといった外見的な要素から、癖や思考回路などの内面的な要素に至るまで、実に細かく思い描いていることが、作品インタビューからうかがえる。

 そうして、自身のなかに抱いたそれを「実写化」するように演じる役者だ。一作ごとにそれらの作業と準備を経て、その身をすり減らすように役と向き合い、演じ切る。表には、なんでもないような顔しか見せずに。菊池風磨とは、そういう男なのだ。

 おおよそ年1本はドラマ作品に出演し、主演も経験しているが、一般視聴者層には役者としてよりも、バラエティ派のイメージが根付いているきらいがある。

 2017年『嘘の戦争』(関西テレビ・フジテレビ系)以降、ゴールデンプライム帯ドラマへの出演がないのも理由のひとつだろう。しかし彼が向かい合ってきた1本1本、すべてが菊池の代表作といえるし、すべてにおいて彼は新しい一面を見せ、印象を残してきた。

関連記事