『半沢直樹』は“個人”から“組織”の戦いへ 閉塞感溢れる現在を切り裂く堺雅人の咆哮

 演劇界を中心とした各界の名優たちが入り乱れ、堺雅人、香川照之、片岡愛之助らがアクの強すぎるキャラクターを嬉々として演じきった、日曜日の最強ドラマ『半沢直樹』(TBS系)が、ついに最終回を迎える。「倍返し」の第1シリーズから7年を経て始まった「感謝と恩返し」の第2シリーズ。尊敬する誰かに対する男たちの「感謝と恩返し」の思いが交錯し、まるで愛憎劇の果てのような結末を迎えた第9話のラストには、それでも「正義を信じる銀行員/国民」つまりは視聴者全ての思いを背負い、時代の流れにすら抗おうとする、半沢直樹(堺雅人)のあまりにも大きすぎる姿があった。

 『半沢直樹』を語る上で、第1シリーズを無視することはできない。だが、第2シリーズを見てから第1シリーズを見た人は、そのあまりのギャップに驚くだろう。なぜなら、第1シリーズの『半沢直樹』は、悪い上司に立ち向かい、倍返しする痛快バンカーものであると同時に、復讐劇でもあったからだ。

 半沢は、かつて工場の経営困難を苦に自殺した父親を追い詰めた大和田(香川照之)への復讐のため、銀行の中枢へと昇り詰めていく。そして最終回、ついに大和田を念願の土下座に追い込んだ。「いろいろあったけれど今は相思相愛」で到底片づけられそうにない因縁の関係である。

 また、第1シリーズには、黒崎(片岡愛之助)の婚約話や、大和田の不正の原因が妻にあったというエピソードなど、半沢の妻・花(上戸彩)に限らず、各々のパートナーとの関係性がビジネスの中で活きる、もしくは邪魔をする展開が組み込まれている。

 半沢を「ナオキ」と呼び「あなたのことなんて大嫌い。だから、最後まで私の大嫌いなあなたでいて」と言う黒崎や、なんだかんだ微笑ましいやり取りを繰り返している半沢と大和田といった、まるで女が入る隙間もないほど濃密な男たちの甘い光景は、第1シリーズには微塵もない。

 そしてもう一つ、第1シリーズではわりとよく喋っていた中野渡頭取(北大路欣也)が、第2シリーズでは、極端に無口であるために、なかなかその真意を量りえないことも気になる変化である。そのため、無口な「殿」の意向を的確に汲まんとするバンカーたち、半沢、大和田、紀本(段田安則)らは、「全ては頭取のため」という意志を同じくしながらも、意見が食い違い、それぞれの思惑で突っ走らざるを得ない。

 これらのシリーズ間の構造上の違いは何を意味するのか。歌舞伎において、「見立て」という手法がある。なぞらえるという意味であるが、この手法を借りて第2シリーズを説明することができるなら、「頭取、さらには半沢直樹を中心とした、男たちの幾重にも絡んだ愛と憎しみの赤い糸が縺れる様」を描くことによって、会社という縦社会の滑稽さを、男たちの純粋さを示すと共に、「個人」ではなく「組織」全体の戦いを第2シリーズは描いたと言えるのではないか。

 再三「愛」と言及してきた、大和田や黒崎、そして渡真利(及川光博)の半沢への思いの奥には、「自分がやり遂げることができなかったことを託す」という真摯な思いがある。「お前のような男こそ銀行のトップにいくべきだ」と励ます同期の渡真利、「もうあなたしかいないのよ」という黒崎。そして、箕部(柄本明)を前に、懸命に半沢を土下座させようとする大和田は、それでも屈せず「銀行員としての使命」を語る半沢を見ながら、目に涙を浮かべている。彼らの姿は、組織や上司の理不尽さに屈せざるを得なかった経験を持つ多くのサラリーマンの気持ちを代弁するものである。

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