『エール』森七菜の「好き」に悶絶 島崎藤村の一節に込められた自分自身を肯定すること
裕一(窪田正孝)に弟子入り志願しに古山家にやって来た五郎(岡部大)と突然上京してきた梅(森七菜)が主人公となる『エール』(NHK総合)第14週「弟子がやって来た!」。第69話では、梅が五郎への恋心に気付き始める。
今回、もしくは今週のハイライトとなりそうなのが、梅が五郎に思いを伝えるシーンだ。自分の容姿ではなく、自分の書いた小説が好きだと、書く才能と人を慈しむ心があると認めてくれた五郎。梅は恥じらいながらも「好き」と伝える。たっぷりのセリフのタメ、少し照れを見せながらもしっかりと五郎を見つめ伝えるそのさまは、揺れ動く梅の心情を表現している。この場面が五郎を演じる岡部大にとって撮影初日。俳優の先輩として、しっかりと岡部をリードしていく森七菜の演技力が遺憾なく発揮されている。
また、第69話で焦点となるのは、自分にとって太陽となる存在。
「私たちの急務はただただ眼前の太陽を追いかけることではなく、自分らの内に高く太陽を掲げることだ」
梅は先生と敬う小説家・島崎藤村の言葉を五郎の前で暗唱する。島崎が小説『春を待ちつゝ』に残したこの言葉の前には、「誰でもが太陽であり得る。」と綴られている。裕一はその音楽の才能を開花させながらも、世間からなかなか認められることはなかった。不安と葛藤に押しつぶされそうになりながら、やっとの思いで栄光を掴み取ることができたのは、いつだって音(二階堂ふみ)という眩しい存在が近くで手を取り、光になってくれていたからだ。
「駄目な人間です」と自分を卑下する五郎だって、梅にとっての太陽だ。もちろん、裕一、音、華(田中乃愛)にとっても。太陽とは昇ったことに気づかないほど、当たり前にある存在なのかもしれない。自身に音楽の才能がないと悟った五郎は古山家を後にすることに。寂しさのあまり大泣きする華、五郎をぎゅっと抱き締める音。五郎が立ち去った後に、梅は一人涙を拭う。
子供の頃に親に売られ奉公に出されていた五郎にとって古山家は、心から安らげる場所だった。梅の急務は、再び路頭に迷う五郎の居場所を作ってあげること。才能が全てではなく、人それぞれの生き方があることを教えてあげること。日陰に向かう五郎にとっての太陽として。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/