『エール』登場人物たちの温度感の差から感じる“時代の転換点” 志村けんさんの再登場も話題に
福島三羽ガラスで出征する兵士のための歌を作ることになったが、鉄男(中村蒼)は兵士に寄り添った歌詞を書くことに苦戦していた。
世の中に戦争色が高まってきて、不穏な空気が流れ始めてきている。『エール』(NHK総合)の第73話は、これから時代が大きく変わっていくことを暗示しているような回であった。軍人と軍人を取り巻く家族とそれ以外の人々の温度感の差が、より時代の転換点であることを感じさせる。
音楽教室を開いた古山家にはたくさんの生徒が通うことになり、歌うことが苦手であった弘哉(外川燎)は、裕一(窪田正孝)からハーモニカを教えてもらうことで、日の目を浴び、みんなと溶け込めるようになっていった。
裕一は弘哉に幼少期の自分を重ねているようにも見えた。ずっと一人で生きていたときに、藤堂先生(森山直太朗)に音楽と出会うきっかけをもらったからこそ今がある。そのためか、弘哉のことを放っておくことはできなかったのだろう。
その横で華(田中乃愛)は、なかなか音楽教室に交わろうとしていなかった。一度断ってしまったことによる意地や罪悪感と母親である音(二階堂ふみ)がみんなのものになってしまう寂しさを抱えているかわいらしい一面が垣間見えた。
かたやで軍人の家族として暮らしている智彦(奥野瑛太)と吟(松井玲奈)の生活は、だんだんと制限がかかり、国のために自らの我慢が強いられるようになっていった。こんな状況下で音楽教室を開く音と鉄男が歌詞を書かないと自分は作曲しないと伝える裕一に、苛立ちを隠せずに理解にも苦しんでいた。仲のよかった人たちが今にも衝突しようとしているのが辛い。
さらに第73話では、志村けんさん演じる小山田先生も登場した。もう見ることができないと思っていた志村けんさんの姿を見られたことで、SNSでもトレンド入りを果たした。優しげで柔らかい雰囲気のある裕一と厳格で威圧的な雰囲気のある小山田先生(志村けん)の対比も、長い戦争期間に突入していく布石に見える。優しさよりも強さが評される時代が近づいてきている。その中で、裕一が時代に飲み込まれていかないかが心配だ。
■岡田拓朗
関西大学卒。大手・ベンチャーの人材系企業を経てフリーランスとして独立。SNSを中心に映画・ドラマのレビューを執筆。エンタメ系ライターとしても活動中。Twitter/Instagram
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/