『2分の1の魔法』が教えてくれる、受け継がれる意志の重要性 “夢の継承”はピクサーにも通じる?
ユニークなのは、やはり“下半身だけの父親”というアイディアだ。これは、イアンの記憶にない父親の姿そのものを表しているように思える。こちらに語りかけてはくれず、ただ足跡を残すだけの存在。それは、父親の生前の業績を眺めることしかできないという、監督の実感が反映しているのではないだろうか。
そして、本作に描かれたなかで最も重要だと思える要素は、“夢の継承”だ。イアンの父親は生前、魔法や不思議なことに興味を持っていたのだという。そして魔法が忘れ去られた世の中で、自分の息子たちに魔法を完成させるという夢を託していた。このように、大きな夢を持つことの素晴らしさや、誰かがそれを受け継ぐことの重要性を、本作は強調している。
ここで、ジョン・ラセターの話をしたい。本作の製作中、ピクサー創立時からの代表的存在で、クリエイティブな面でピクサーとディズニー・アニメーション両方のスタジオを統括していたラセターが、女性スタッフへ不適切な行為をしていた事実が発覚し、社を去ったという出来事が起きた。本作のプロットが完成したのは、その前である。
もちろん、ラセターが地位を追われたのは当然のことだ。しかし、彼が育てたピクサー全体を否定する必要はないし、ラセターに優れた創造性があったという事実は疑いようがない。それはまさに、魔法のような才能だ。スタッフたちは、その創造性や良い部分だけを受け継ぎ、独自に成長していかなければならない。偶然か意図的にかは分からないが、本作で描かれた、主人公の父親への想いは、まさにそういったものになっているように感じられるのである。
それはジョン・ラセターにとっても同じことなのではないか。彼が少年時代に心躍らせ、アニメの道を志す原動力となったディズニー・アニメーションの創造主であるウォルト・ディズニーは、ラセターが少年時代に亡くなっている。ウォルト・ディズニーもまた、後世になってその人間性についていろいろと議論が起こっているが、やはり彼がいなければディズニー作品は存在せず、ピクサーも存在し得なかったはずだ。そしてピクサーのスタッフたちやわれわれは、ウォルト・ディズニー亡き後も、ラセターがスタジオを去った後も、彼らの作品を楽しみ、または学び成長することができる。
生身の人間は、良い面も悪い面も持っている不完全な存在だ。しかし、世の中に素晴らしいものが存在していることや、それを追求していく姿勢だけを、仕事や行動、コミュニケーションを通して、のちの世代に伝えることはできる。本作の父親の純粋な想いがバーリーへ、そしてイアンへと継承されるように、人の意志は他の人に受け継がれ、その存在はかたちを変え、時を超えて生き続けていく。それはまさに、われわれの世界に存在する“魔法”なのではないか。家族の愛情や、兄弟の関係を描き出した『2分の1の魔法』は、それを教えてくれる作品でもあるのだ。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『2分の1の魔法』
全国公開中
監督:ダン・スキャンロン
キャスト:トム・ホランド、クリス・プラット
日本版声優:志尊淳、城田優、近藤春菜ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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