松本まりかは単なる“あざとかわいい”女優ではない 2つのドラマで見せる全く違った芝居

 暦の上では秋だが、肌感覚としてはまだまだ夏が終わらない今日この頃。ますます波に乗る女優の「松本まりか劇場」を楽しみながら秋へと突入したい。2018年の『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)で、人気女優の仲間入りを果たした松本。現在、『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)、『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)と、いずれも高評価の、しかし全く毛色の違う連続ドラマに出演して、物語を彩っている。

熟成させたパワーを一気に周知させ、さらに躍進

 同性からも、好意を持って“あざとかわいい”と評される松本は、2000年に女優デビューし、芸歴20年を迎えた35歳。ゲーム『FINAL FANTASY X』のリュックや、アニメ『蒼穹のファフナー』の遠見真矢、『シュガシュガルーン』のショコラなど、声優としても活躍してきた。もとより魅惑的な声と容姿を持っていたが、キャリアを積み重ねて熟成させたパワーを、『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一気に周知させた形だ。そして高い注目を浴びるようになってからも、憑依型とも呼ばれる高い演技力で、各々のキャラクターを、松本が演じるからこその圧倒的な存在感で息づかせてきた。

 また最近では『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)といったバラエティ番組や、インスタライブなどで、振り切った演技や、反対に自然体の表情を見せて、ファンを増やしている。そんな松本の女優としての実力を、今、2つのドラマで堪能できる。

悪女をまといながら愛への渇望を滲ませる『竜の道』

『竜の道 二つの顔の復讐者』(c)カンテレ

 玉木宏主演のサスペンス『竜の道』では、玉木と高橋一生が演じる双子の復讐相手である霧島(遠藤憲一)の長女・まゆみ役。ここでの序盤、松本は存分に嫌な女を体現してきたが、それだけに終わらない。まゆみは、高橋扮する竜二が、あくまで復讐のために近づいた相手。母・芙有子(斉藤由貴)にもキツクあたる、高圧的でトゲだらけの、いわゆる悪女だった。第4話では、竜二と楽しそうに笑い合う美佐(松本穂香)を、妹と言いながらも血は繋がらない関係だと知って攻撃。だが美佐も攻撃されるばかりではなかった。

 「誰からも愛されて、まっすぐ育ってきましたみたいな顔して」と美佐へ毒を吐くまゆみに、美佐は核心を突く。「それは誰からも愛されないから、(自分は)まっすぐ育たなかったと言ってるの」と。まゆみの表情に、そのパンチが効いたのを、はっきりと見て取れた。

『竜の道 二つの顔の復讐者』(c)カンテレ

 松本演じるまゆみには、どこか弱さがある。「経済的には恵まれていても、助けを求めている女性なのだろう。どうにかしてあげたい」と思わせる何かがあるのだ。「脅かすだけの約束でしょ!」と、美佐を襲うようけしかけた男たちを止めようとする姿にも、世間知らずさと、悪人ではないまゆみの素が覗いた。終盤、「俺の前では自分を守らなくていい」と抱きしめる竜二に、「愛なんかいらない」と突き返したまゆみだが、彼女が愛を欲しているのは明白。しかし竜二は、あくまでも復讐のためにまゆみの心に入り込もうとしているわけで、まゆみを思うと、切なくなってくる。

『竜の道 二つの顔の復讐者』(c)カンテレ

 これまでにも、そのキャラクターの心情に、観る者をグイグイと引き込んできた松本。どこかに昭和の香りがするとも言われる『竜の道』だが、口にするとこっぱずかしくなるような“愛”という言葉が、それを渇望するにせよ、はねのけるにせよ、まゆみの発するトゲには滲んでいた。そして第5話では、芙有子を思いやる優しさを見せたり、まゆみらしい次のデートへの誘いにいじらしさを覗かせたりと、早くも変化が。竜二も根っからの悪人には見えないところがあり、竜一(玉木宏)の言う通り、まゆみへの情が湧く可能性もある。登場人物それぞれの、思惑だけでなく、感情がぐるんぐるんと激しく渦巻き始めた。軸は双子の兄弟の復讐劇だが、そこに巻き込まれるまゆみの人生を、松本がどう見せてくれるかにも、目が離せない。

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