『ハケンの品格』は“2020年のリアル”を描いているのか 実際の派遣社員に聞いてみた

 同じ派遣社員でも職種が違うとどうなのか。営業職に従事する元派遣社員で、現在契約社員になった20代女性に聞いてみた。

「私が所属する営業部は正社員、契約社員、派遣社員の混合グループです。ドラマとは違って同じ業務内容を任せてもらえるので、やりがいが感じられやすかったです。ただ、毎月の目標達成者にはインセンティブが支給されるのですが、その金額が契約社員と派遣社員で倍違ったときは衝撃でした」

「とは言え、派遣社員だった頃は残業分も時給が発生したので、月給でいうと契約社員よりも多かったです。試験に合格して契約社員として入社してくる人たちに、なんとなくそれがバレないようにしていました」

 給与面については一概に契約社員や社員の方が派遣よりも多いとは言えなそうだ。特にSE職で派遣社員といて働いたことのある男性曰く「SE系は時給2000円以上と高額なので、派遣社員として大手企業を渡り歩く人も少なくないと思います」とのこと。

 ただ、前述の営業職の女性が言うには、「派遣社員の頃は、会社アドレスもドメインが契約社員や正社員と違うので、昇格してメールアドレスが変わったときは本当に嬉しかったです。また、研修が充実している会社なんですが、派遣社員は受けることができない。研修課題に取り組む皆の姿が羨ましかった。マネージャーは分け隔てなく接してくれましたが、“査定面談”ももちろん派遣社員にはなく、面談は派遣会社の担当者とだけでした。ボーナスが出ないので当たり前なんですけどね」。

 ドラマ第1話では、派遣社員の福岡さんが人事担当者に契約更新をチラつかされ、セクハラまがいの被害を受ける様子が描かれていた。会社の規模感にもよるだろうが、彼女は人事部との接点はほぼなかったと言う。

 また、宮部社長(伊東四朗)は「建前」だと言ってのける「同一労働同一賃金」が導入されてから、実際には雇用形態切り替えのチャンスは皆に広く開かれるようになったそうだ。

 「これまでは派遣から契約社員、契約社員から正社員に切り替わるには、それぞれある程度の就労期間と上司からの推薦が必要でしたが、今は年に1回昇格テストが開催されるようになり、誰でも受験できます。有能な人材にとっては早めに雇用形態が切り替えられるチャンスが増えました。ただ、試験に落ちた場合、なかなかうちの会社で次の目標を見つけにくくなると思うので、基準に達していない派遣社員、契約社員がふるいにかけられやすくなっている気もしなくはありません」と、近々の会社の制度の変化にまつわるプラス、マイナス両面についても教えてくれた。

 「このコロナ禍で、雇用形態切り替えのテストに合格していて本当に良かったと思ったのが正直なところです。契約社員でも3年間は基本的にこの会社にいられると思うと、安定感、安心感が全然違います」と話す。「ゆくゆく子どもも欲しいと思ったときに、やっぱり産休・育休を取れる正社員は本当に魅力的なので、そこを目指すつもりです」と今後の抱負についても語ってくれた。

 “ノマドワーカー”という言葉が流行り、フリーランスという新たな働き方に注目が集まった時代もあったが、このコロナ禍で雇用形態によって保証される安定感に再び目を向けた人も少なくなかったのではないだろうか。正社員に副業を認める企業も増えており、リモートワーク化も加速する中で、大前春子が派遣社員という道を選ぶ理由として挙げている「自由度の高さ」や「しがらみからの解放」についても、実際には雇用形態にあまり影響を受けなくなってきているようにも思える。『ハケンの品格』は今後どんな問題を炙り出してくれるのか。「日本は沈没します」と断言する大前春子が描く今後のキャリア戦略も気になるところだ。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『ハケンの品格』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:篠原涼子、小泉孝太郎、勝地涼、杉野遥亮、吉谷彩子、山本舞香、中村海人(Travis Japan)、上地雄輔、塚地武雅(ドランクドラゴン)、大泉洋(特別出演)、伊東四朗
脚本:中園ミホほか
演出:佐藤東弥、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、山口雅俊、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ

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