橋本愛が考える、コロナ以降の表現方法 「固定観念や現状を少しずつ変えていければ」

「この自粛期間、家で1本も映画を観ていない」

ーー実際にインスタライブでファンの方々と交流してみて、いかがでしたか?

橋本:やっぱり一番うれしい言葉って、「かわいい」とかよりも、「元気が出た」「頑張れる」「救われた」とかなんです。誰かに何か力を与えられることがすごくうれしいし、そのフィードバックがあって、初めて「この仕事をやってよかった」、大きく言えば「生きててよかった」と思える。いままでは、俳優はプライベートを見せてはいけないという概念や、取材のときとかに自分の思想や哲学を話すのは作品の邪魔になるから控えるみたいなことを、ものすごく意識しまっていて、自分の中の本質的な部分を避けた言葉遣いをしてきたところがありました。そんな中で、先日インスタグラムで初めてファンの方からの質問返しをやったときに、自分の深い部分をさらけ出してみようと思ったんです。そしたら、意外と言葉に引っかかってくれる方が多くて。きっといまは本質を見る目がものすごく養われてきているし、私自身もそういう世界を望んでいる。むしろそうならなければいけないと思うので、そういう固定観念や現状を少しずつ変えていければと思いました。そう思えたのは、ファンの皆さんのおかげですね。すごく助けてもらいました。

ーーインスタライブなどでの交流は今後も続けていく予定ですか?

橋本:そうですね。いままでも自分の中の言葉を吐き出したい衝動ってたくさんあったんですけど、俳優にとってそういう場所は、作品のプロモーション取材とかでしかなかったから、ずっと溜まっていた部分もあるんです。徐々に撮影などお仕事も再開していくと思うので、いままでのペースでできるかどうかはわからないですけど、タイミングがあればまたやると思います。

ーー橋本さんが発せられた言葉でいうと、「ミニシアター・エイド基金」に寄せられた応援コメント動画も大きな話題となりました。

俳優 橋本愛 【ミニシアター・エイド基金賛同コメント】

橋本:ミニシアターは私にとって、普通にある存在、まるで日用品と同じ位置にあるような生活圏にあるものだったので、ものすごく大事というよりも、存在してくれていなければ、自分の平常が狂ってしまうものなんです。これもさっきの話に通じることではあるのですが、他の皆さんが寄せられたコメントも拝聴した中で、私に何ができるかを考えたときに、腹を割って話すしかないと思って、自分の実体験を素直に出てきた言葉で語ることにしました。ものすごい反響をいただき、実際にあの動画きっかけで基金に賛同してくださった方もいらしたようなので、それは単純にものすごくうれしかったですね。

ーー「私は昔、映画に命を助けてもらいました」「唯一安心できる暗闇は、映画館だけでした」「絶対に生きて、生きて、生きて、生きて、またミニシアターで会いましょう」など、橋本さんの言葉はものすごく心に響きました。

橋本:自分がやってきた体験って、少なくとも自分が選んできた体験なんです。私自身、仕事面でうまくいかないことが続いた時期があったのですが、それもすべて自分で選択したことだったんですよね。なぜ自らそういう選択をしたのかというと、自分の中にどん底を知りたいという気持ちがあったから。そのままうまくいってしまうことへの危機感を感じてしまって、自らどん底に落ちていったんです。実際に地獄を見て、来なきゃよかったとは思ったんですけど、地獄を知っている人たちの痛みを知ることはすごく重要だったので、そういう意味ではいまでも間違ってなかったと思うし、これからも自分の選択を間違いにしないための選択をしていかなければいけない。ミニシアター・エイドに寄せたコメントによって、絶望の淵に立たされた人たちに少しでも寄り添えた気がしたので、過去の経験が報われた気がしました。

ーー結果的にミニシアター・エイド基金の総額は3億円を超えました。映画館も再開され始めましたが、ウイルス対策のため販売座席数が減少するなど、平常化にはまだまだ時間がかかりそうです。

橋本:そうですね……。ミニシアター・エイド基金に関しては、深田晃司監督や濱口竜介監督をはじめとする方々が立ち上げてくださったから、私たちは支援金として寄付をするという最低限のアクションで済みましたが、深田監督と濱口監督がこの特集記事の中で「第2弾、第3弾は基本的に考えていない」とおっしゃっていたように、やっぱり自粛期間だからこそできたことで、その労力は相当なものだったと思います。私としては、日々変わっていく状況の中で、できることを見つけながら、行動していきたいなと思っています。

ーーまずはちゃんと映画館に行くことが最大の貢献になるかもしれませんね。

橋本:そうなんですよね。私、この自粛期間、家で1本も映画を観ていないんですよ。

ーーえっ、そうなんですか?

橋本:そうなんです。みんなにすごく驚かれるんですけど(笑)。この期間で、どれだけ自分にとって“空間”が大事かを実感しました。音楽にしても、家でライブ映像を観るのではなく、やっぱりライブに行きたい。舞台は劇場で観たいし、映画は映画館で観たい。いまは配信サービスがすごく豊かになってきていて、世界的にもそういう流れになっていくのかもしれないですけど、私はその空間がなくなってしまったら、自分の人生に耐え難い虚無を抱えることになってしまうので、空間を残す、保つ、努力は一個人として継続していきたいです。

ーー本当にその通りだと思います。一方で、映画やドラマの撮影も再開されていくと思いますが、そこも完全に元に戻る見通しはまだ立っていません。

橋本:撮影に関しては、私はそこまでストレスを感じずに済むだろうなと思っています。というのは、もともと現場で人と距離を取っていたタイプだったので(笑)。収益面や効率面などいろんなリスクがある一方で、距離を取る必要性があることは、プラスに働く側面もあるんじゃないかなと思っています。社会を見ても、人との距離の測り方を見誤ってる人がいて、そういう人のせいでうまく人との距離を縮められない人もいる。そういう社会の悪習がソーシャル・ディスタンスというかたちで一旦フラットになって、人と人との適切な距離が見直されることを期待しています。

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