『美少女戦士セーラームーン』がアニメ界に起こした革命 無料配信を機に考える
だが一方で、前記の対談で庵野秀明が「あのアニメには中味がない」とも評してたようにコアなアニメファンの一部で内容に否定的な声もなくはない。初期のアニメ版『セーラームーン』は、前番組『きんぎょ注意報!』で、原作をギャグ寄りに変えて高視聴率を叩き出したディレクター、佐藤順一の色合いが濃く出ている。例えばセーラーマーズ=火野レイはアニメファンに設定され、武内直子によるクールビューティさは影を潜めた。
当初、過去作のリメイクが予定されていたところに急遽製作が決定した『セーラームーン』は1年間のワンポイントリリーフとして、急ピッチで準備が進められ、また、当時は製作員会の元でマーチャンダイジングやメディアミックスを展開していく戦略も曖昧であった。マニアの視点から物足りなさを指摘する声がある所以でもあるが、それが魅力でもあった。
そんな中で社会現象となるヒットとなったことはまさにミラクルなロマンスではあったが、アニメ版と漫画版が平行して展開することで乖離が見られることになる。さらに一旦は半年での打ち切りが検討されたことで揺らぎも生じた。『セーラームーン』1期終盤、セーラー戦士とセーラームーンは壮絶な戦死を遂げ、転生することになるが、武内直子はそのロジックに難色を示したとも言われている。
この葛藤がモチーフになったのかと思わせるエピソードが第21話「子供達の夢守れ!アニメに結ぶ友情」である。火野レイをアニメファンに仕立てた伝説の回で、劇中アニメのセーラーVを作っているスタジオが舞台というメタな設定にアニメファンは大喜びだった。しかし、妖魔に洗脳されたアニメーターが「セーラーVを死なせる」と宣言、それに対しキャラクターデザインの只野和子をモチーフにした只下和子が「アニメはみんなで造る物」と、なだめるシーンが出てくる。今振り返れば、意味深長で、武内直子へのメッセージという見方も可能であろう。
デビュー以後中々ヒットの出なかった武内直子は、新しく担当編集者となった小佐野文雄に「あなたの好きなものはなんですか?」と問いかけられてセーラームーンを産み出したと語っている(参考:超人気漫画の誕生秘話【大和和紀×武内直子 初対談①】|FRaU)。戦隊シリーズ、天体や星占い、鉱石といった、武内直子の「好き」が詰まった宝石箱が漫画版『セーラームーン』であった。しかしアニメとなると、絵は省力化され、ストーリーや表現もマイルドに置き換えられてしまう。