篠原涼子×大泉洋が織りなす“お節介型ラブコメ” 時代を先取りしていた『ハケンの品格』
13年ぶりの復活が話題を呼んでいる『ハケンの品格』(日本テレビ系)。時給3000円のスーパーハケン・大前春子(篠原涼子)の活躍を描いた前作は、平均視聴率20.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の大ヒットを記録。今日まで続く「水曜22時の日テレドラマは女性がターゲット」というブランドを決定づけた記念碑的作品だ。
続編の放送開始、そして本日の特別編に向けて、改めてその魅力をまとめてみたい。
スーパーヒロイン・大前春子のキャラクター
『家政婦のミタ』(日本テレビ系)、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)、さらには『義母と娘のブルース』(TBS系)まで。2010年代の女性が主人公のヒットドラマの共通項は、ヒロインが「完全無欠のスキルを有している」もしくは「感情の読めない(笑わない)アンドロイド型」であること。こうしたヒロイン像の礎を築いたのが、この『ハケンの品格』と、そのさらに1年半前に放送された『女王の教室』(日本テレビ系)だ。
『女王の教室』の阿久津真矢(天海祐希)が、同じ遊川和彦脚本である『家政婦のミタ』の三田灯(松嶋菜々子)の原型となるダークヒロインだったのに対し、『ハケンの品格』の大前春子は、こちらも同じ中園ミホ脚本による『ドクターX』の大門未知子の始祖というべきキャラクター。「契約期間の延長は一切いたしません」「担当セクション以外の仕事はいたしません」「休日出勤・残業はいたしません」と「いたしません」の大連発。東海林主任(大泉洋)ら正社員の反感を買いながらも、その完璧なスキルで周囲を騙らせる痛快さが、視聴者の共感を呼んだ。
また、それだけ高いスキルを持ちながらも、実は絵が下手で、それが明らかになるとまるでバグを起こしたように奇行に走る様子は実にチャーミング。無機質なようで、人間味あふれるユニークさは、『義母と娘のブルース』(TBS系)の宮本亜希子(綾瀬はるか)にも通じる。
こうした魅力的なキャラクターを先んじて打ち出したことに、本作の目新しさがあった。
言いにくいことを代弁する、弱者に寄り添った目線
「派遣が信じるのは、自分と時給だけ。生きていく技術とスキルさえあれば、自分の生きたいように生きていける」が信条の大前春子は、周囲に対して忖度は一切なし。張り切って残業をしようとする東海林主任に対し、「残業は意欲の表れではなく、職務怠慢の表れです」とバッサリ。
打ち上げに誘う里中主任(小泉孝太郎)には、「私は就業時間とプライベートの時間をきっちり分けたいんです」と無表情。さらには、「義理チョコはね、会社の潤滑油ですよ」とバレンタインチョコをねだる東海林主任を、「私たちはモテない社員の癒し係ではありません」と一刀両断した。
2020年の今、大前春子の発言を並べてみると、むしろ彼女の主張の方が納得感があるように思える。実際、義理チョコを廃止する会社も増えた。ただ当時は、まだまだ残業や休日出勤は会社への忠誠心を測るバロメーターだったし、職場の飲み会を断る人間は空気が読めないヤツ認定だった。そんな中で、思っているけど言えない本音を代弁してくれる大前春子に、視聴者は大いに溜飲を下げた。
あくまでベースはライトなコメディではあるけれど、視点そのものは非常に多様性に富んでいる。たとえば、大前春子の配属されたマーケティング課には、正社員、派遣社員だけでなく、定年を過ぎた嘱託社員・小笠原(小松政夫)もいたし、派遣社員も女性だけでなく、男性の近(上地雄輔)もいて、ジェンダーバランスも意識されていた。
仕事ができると「生意気なんだよ」と嫌味を言われ、不当に気配りを要求される、働く女性がぶち当たる理不尽もしっかりと汲み取っている点が、本作が良作である証拠。単なる派遣賛美ではなく、業務とは関係のない雑用を押しつけられる現実や、「悲しいことにキャリアを積んだ真面目な派遣から切られていくんです」という派遣社員35歳定年説にも言及。
正社員VS派遣社員の構図をとる一方で、トイレで大泣きする新米派遣社員の森美雪(加藤あい)に、正社員の黒岩(板谷由夏)が「本当に自分で考えた企画なら男たちに潰されちゃダメよ。里中主任のためだなんて言ってんじゃないわよ」と“働く女性の先輩”として叱咤するくだりは、隠れた名シーン。それぞれの正義を、シリアスになりすぎず、だけど現実に立脚した視点から掘り下げていたので、不要な視聴ストレスを感じずにすんだ。
大前春子の設定はぶっ飛んでいるし、正社員との対立構造にはデフォルメがあるけれど、実は一定の社会性を備えた娯楽作なのだ。