コロナ禍によって映画はどう変わる? バーチャル映画館はインディペンデント作品の救世主となるか

 インディペンデント系の劇場は、通常の配給作品のように劇場のHPでチケットを販売し、デジタルリンクを付与する“バーチャル映画館”を試し始めている。テキサス州で設立され、全国チェーンにまで育った映画館チェーンのアラモ・ドラフトハウスでは、「Alamo at Home」というシリーズを立ち上げ、バーチャル映画館を開始した。

 現在は、2019年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞したブラジルのSFスリラー『Bacurau(原題)』(クレベール・メンドンサ・フィリオ&ジュリアノ・ドネルス監督)など9本の作品が公開されている。チケットを購入すると5日間有効のリンクを取得することができる。これは『Bacurau』の配給会社Kino Lorberのサイトを経由してサービスが提供され、チケットを購入する際に映画館を選び、いつも通っている地元の映画館を支援することができる。アラモ・ドラフトハウスで映画の上映前に流れるエチケットを促す映像もオンラインにアップされ、Q&Aなどのライブ・イベントも予定されている。結果的に『Bacurau』はアメリカ全土100以上の劇場を経由しオンライン上映されており、この規模の作品としては大きく公開館数を増やすことに成功した。同様の試みは、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)の北米配給を手がけたマグノリア・ピクチャーズも行っている。オンラインで映画を観る方法は、iTunesで映画を購入するかNetflixなどのサブスクリプションサービスに加入する以外にも存在する。数百館で公開されるようなスタジオのテントポール作品(その年の会社の屋台骨となるような大型作品)の公開延期が相次いでいる今、たとえ新型コロナウイルスの影響が収束したとしても、今秋や2021年前半の映画公開カレンダーは大混雑となるだろう。地元の劇場との親和性も高く、熱意のあるファンを持つインディペンデント系作品は、オンライン公開という金脈を見つけたのかもしれない。

 一方、2月中旬のベルリン映画祭以降、大きめの国際映画祭はほぼ中止もしくは延期となっている。3月のSXSW(中止、テキサス州オースティン)、4月のシネマコン(中止、ラスベガス)、5月のカンヌ(延期、フランス)、6月のアヌシー国際アニメーション映画祭(中止、フランス)は何らかの決断を下した。だが7月以降ならば以前のように大勢のゲスト、観客、業界人を集めた祭宴を開ける状況にあるかなど、誰にも予想がつかない。SXSWとアヌシーは方向を転換し、オンラインで映画を共有する試みを行うそうだ。SXSWの映画部門にて上映予定だった作品は4月下旬の10日間、米国内のAmazon Primeで独占的に配信される。Amazonは配信作品の配信権を取得し、権利料を配分することを表明している。アヌシーは映画祭自体を中止したものの、オンラインで特別プログラムを配信する予定だという。

 2007年にNetflixがDVD宅配サービスからオンデマンド方式で映画やテレビ番組を配信する事業に変革を遂げ、約12年が経った。オンライン上で映画を観ることに抵抗もなくなり、Netflix製作の映画がアカデミー賞の台風の目になるような時代が来た。人々が外出を禁じられ自宅に留まることを余儀なくされた今、映画の鑑賞方法も映画館のあり方も変化していく。このパラダイムシフトを経て、映画界はどう変わっていくのか興味はつきない。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

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