『エール』薬師丸ひろ子の母としての強さ 「女、子供」の関内家に待ち受ける試練

 音(清水香帆)を中心とした関内家の幸せな日々に、急転直下、これ以上にない不幸な出来事が起きた、NHK連続テレビ小説『エール』第9話。父・安隆(光石研)の急逝だ。

 大阪で子供を助けるために、電車にはねられて亡くなってしまった安隆。あまりの突然の出来事に、死から1週間経っても残された家族にいまだその実感はない。

 吟(本間叶愛)、音、梅(新津ちせ)の三姉妹を支えるのが、安隆の意思を受け継ぐ妻であり、母の光子(薬師丸ひろ子)。広大な豊橋の海を前に、光子は「狭い場所で眠るのは嫌だ。広いところがいい」という生前の安隆の意向から、遺灰を海に散骨する。両手で握った遺灰に頬を当て、風に舞っていく安隆の魂。必死に涙を堪えながらも凛と立つ母の姿に、音は何を思うのだろうか。

 この豊橋の海は、タイトルバックでも最も印象的なサビに登場する場所だ。音(二階堂ふみ)が後に夫婦となる裕一(窪田正孝)を引き連れて海岸を走るシーン。そこには安隆の魂も在るのだとすると、また見方も変わってくる。

 静かになった食卓、毎週木曜日の銭湯の日、お団子が好きだった父との川俣での思い出。日々の日常に安隆がいないことで、音は悲しみと共に父の死をようやく実感する。「泣いていいんだよ」。母のその言葉に三姉妹は大粒の涙を流す。光子は彼女たちに「お父さんはいる! ね? 目には見えないけれど、ずっとあなたたちのそばにいる」と力強く伝えるのだ。聡明で温厚だった安隆。仏壇に手を合わせ、「あの子たちを守ります。どうか安心してください」と光子は誓う。女性としての芯の強さが示されたシーンである。

 しかし、思いを新たにした関内家に降りかかってくるのが、事業継続のピンチだ。安隆がいなくなったのをいいことに、馬具販売の口利きだった打越(平田満)は光子に“男と女”としての関係性を迫ってくる。嫌悪感をあらわにする光子。一方では、馬具職人の岩城(吉原光夫)も関内家を離れようとしていた。安隆の墓に手を合わせる姿からは、世話になったという義理を感じさせるものの、音には変わらず「女、子供には分からん」と突っぱねるのだ。

 大正デモクラシーとは言え、まだまだ封建的な風土が残る時代。「女、子供」といった差別。音が学芸会で演じる、女性が主役の『竹取物語』。残された関内家は、大正という新しくも険しい時代をどう生きていくのか。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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