『エール』津田健次郎の語りが朝ドラにもたらす“エモさ” お茶の間の交流にも新しい息吹が

 津田をナレーションに起用したことについては、制作統括の土屋勝裕氏が発表時のコメントでこう説明している。

「今回の『語り』は、客観的なことに加え心情も語り、ときに登場人物に突っ込みを入れたり、ときに嘆いたり、それも音楽がガンガンなっているなかで、視聴者にも聞こえるように語らなくてはならない、一筋縄ではいかない『語り』となっています。津田健次郎さんは、落ち着いた声で聴きとりやすく、耳に心地よく、何より、うまい! 津田健次郎さんの“イケボイス”が『エール』をさらにおもしろくナビゲートしてくれます」

 確かに、先述の運動会シーンなどは象徴的で、ハーモニカの演奏と、裕一の父(唐沢寿明)や周囲の声援など、様々な音が鳴り響く中、静かで穏やかな声なのに、スーッとナレーションが入ってくる。

 楽器で例えると、例えばピアノでは、演奏する人の腕の良さや、楽器そのものの良さ(残念ながら値段と相当比例する)がはっきりわかるのは、大音量ではなく、「ピアノ」「ピアニッシモ」などの小さな音だとよく言われる。音量そのものは小さく、静かでも、遠くまで響く音――そうした音のふくらみ、響きを持つナレーションが、「音楽」を題材とした音に溢れた物語では絶対的に必要だったのだろう。

 ちなみに、津田の起用は、意外な副産物として、朝ドラに新しいかたちの交流ももたらしている。Twitter上にはこんな声が多数あるのだ。

「エールが始まってから毎朝おばあちゃんが『ほら今日も津田健次郎さんがいい声でナレーションしてくれるよ』って7時50分に起こしてくれる 祖父母と津田さんについて語る朝は楽しすぎる」
「津田さんが喋るたびに私が悶え死ぬのですが(アニオタはバレてる)、お母さんも津田さんの声の良さに気づいたらしく顔写真をお見せしたところ、ドストライクだったそうです」
「昨日、母親にエールのナレーション誰なの?と聞かれたので、津田健次郎さんと言う本職の声優さんで、イケボなだけじゃなくイケメンでもあると教えたところ、メモ帳に名前書いてと言われたので、メモ帳に津田さんのお名前を書いてあげた さすが津田さん、70代にも分かるイケボ!」 

 従来は、「母親や祖母が見ているから、一緒に見たのが最初」というのが、朝ドラとの一般的な出会いだったはず。それが、人気声優の起用により、アニメファンである孫や娘が親や祖父母世代に逆に魅力をプレゼンするという面白いやりとりが生まれているのだ。

 物語そのものにも、お茶の間の交流にも、新しい息吹をもたらす津田健次郎のナレーション。今後、人気声優の起用は、朝ドラの一つの定番になるかもしれない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~9月26日(土)予定
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00~11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

関連記事