『エール』覚悟を決めた裕一の眼差し 窪田正孝が15分間で見せた多様な顔

 『エール』第12回(NHK総合)では、音楽家を目指す裕一(窪田正孝)の曲が選ばれ、順風満帆に見えた矢先、吉野(田口浩正)の話に父・三郎(唐沢寿明)が乗り、莫大な借金を抱えてしまう。第13回では、音楽一筋で音楽家を目指すことを信じてやまなかった裕一が、その夢を諦めざるを得ない現実に直面し、その覚悟をするまでが描かれた。

 福島ハーモニカ倶楽部の演奏会当日。裕一がいつもの雰囲気と違う。それは演奏会の前日が原因であった。三郎は「音楽が好きか」と裕一に問いながら、「好きなことに一直線になれるのはいい」と、どこか物憂げな表情で伝える。どこかよそよそしい父の態度に、様子がおかしいと気づく裕一は「何かあったのか」と核心に迫る。

 その嫌な予感は的中し、裕一は養子に出ないといけないことを告げられた。それは裕一が、生きる指針となっていた音楽家を志すことができなくなることを意味していた。

 家族にとって自分が養子になることが最善の策であることを察した裕一は、どうすることもできずに次の講演をラストにすると悲しげな表情で告げる。

 ついに裕一が作曲をした曲を演奏するときが来て、裕一は指揮を任される。指揮を振る裕一はどこか覚悟が決まっているように見えた。どんな状況でも、音楽をしているときは音楽にのめり込む。そんな裕一が垣間見えた瞬間である。父は裕一の姿を見て涙し、会場には拍手が鳴り響いた。

 演奏後に、裕一はハーモニカ倶楽部を辞めると伝え、それ以降の裕一は商業学校で味気ない日々を過ごした。

 そしてとうとう裕一が養子に行く日となり、家族との別れの日を迎える。それでも優しい裕一は、笑顔を見せて「もう大丈夫だから」と告げて去るが、その後ろ姿はどこか悲しげに見えた。

 荷物の中には、「見るのは辛いと思うけど、辛いときに支えてくれるのは音楽だと思うから」という母・まさ(菊池桃子)からの手紙が添えられている。新しい家で待っていたのは、底抜けに明るい個性豊かな川俣銀行の人々であった。

 第13回では、裕一演じる窪田正孝の演技に注目が集まった。夢を諦めざるを得ない悲しげな表情、何もやる気が起こらないときの物憂げな表情、指揮を振るときの真剣な表情、心配させないように家族に見せる優しい表情。15分の間で多様な顔を見せ、演技派俳優としての一面を見せた。

 音楽に一筋であったにも関わらず、音楽を諦めざるを得なくなった裕一が、川俣銀行の人たちと出会うことでどのように変わっていくのだろうか。

■岡田拓朗
関西大学卒。大手・ベンチャーの人材系企業を経てフリーランスとして独立。SNSを中心に映画・ドラマのレビューを執筆。エンタメ系ライターとしても活動中。TwitterInstagram

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
NHK総合にて、3月30日(月)より放送開始
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、佐久本宝、菊池桃子、森山直太朗、相島一之、松尾諭、堀内敬子、菅原大吉、田中偉登、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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