『スカーレット』喜美子と照子が語る「大人になること」 信楽に別れの季節が近づく

 『スカーレット』第50回。丸熊陶業社長・熊谷秀男(阪田マサノブ)が急逝してしばらく経ち、照子(大島優子)が喜美子(戸田恵梨香)のところにやってきた。顔を見合わせて夏みかんをほおばるうちに2人の顔に笑顔が戻る。こんなとき何も言わずにそばにいてくれる存在はありがたい。「ここんとこ食欲なかった」と言う照子は妊娠したことを喜美子に報告する。家族を亡くした照子が心なしかさっぱりとした表情に見えるのは、自身の中に新しい命を感じているからだろうか。

 「信作と声をかけようかと言うてたんやけどな。弱ってるところを見られるの嫌いやんしな」と気づかう喜美子に、「あんたらの顔見たら腹立つところやった」と憎まれ口を叩く照子。遠回しな「ありがとう」の言葉がほほえましい。

 信作(林遣都)や照子よりもひと足早く社会に出た喜美子に、照子は「結婚も出産も親の死もあんたらよりも先に経験してるわ」と話す。喜美子の「そんな急いで大人にならんでも」という言葉は、さまざまなものを背負わなくてはならない親友を思いやるようにも、周囲が大人の階段を昇っていく中で自分だけ取り残されて戸惑っているようにも聞こえた。

 大阪に行って個性的な人々を目にした喜美子は、女性の生き方は家庭に入ることだけではないと知っているが、この時代に信楽で生きることは他に選択肢がないということでもある。一見恵まれているような照子の不自由さをもっとも理解できるのは喜美子であり、そんな喜美子だからこそ照子は安心して本音を話せるのだろう。照子は、夫・敏春(本田大輔)による丸熊陶業の大改造を話題にする。「これからは電気やガスの時代」と言う敏春は火鉢の生産を縮小しようとしていた。「よう考えて、深野先生ともよう相談してな」と照子は喜美子に伝える。

 その頃、深野(イッセー尾形)は事務所で敏春たちと向かい合っていた。社長が亡くなったことで風向きが変わったことを察した深野は、敏春に「引き際は潔く」と別れを告げる。放送50回を迎えた『スカーレット』では、多くの忘れ得ぬ出会いが刻まれてきた。少女時代、大阪編、丸熊陶業と喜美子の前に登場する人物は、喜美子の人生に影響を与えては去っていくのだが、後を引きずらないさっぱりとした退場の仕方はある種の無常観すら誘うもので、別れしなの見事さが美しい余韻を残してきた。

 人は去るが、芸術は残る。絵を売った八郎(松下洸平)が深野のことを決して忘れないように、形が変わっても受け継がれるものを『スカーレット』は描いているのかもしれない。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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