『IT/イット』完結編はなぜ長尺になったのか? ホラー描写とテーマの関わりから考える

 ホラー映画史上最大のヒットという大成功を収めた、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』……その続編かつ完結編が、本作『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』だ。のけ者扱いされ、様々な事情を抱える子どもたち“ルーザーズ(負け犬)クラブ”の面々が、バラエティ豊かな方法で惨殺していく、ピエロの姿をした超常的な存在“ペニーワイズ”につけ狙われながら、恐怖を克服するべく立ち向かうという内容だ。

 前作と同じくアンディ・ムスキエティが監督を務め、凶悪なピエロ“ペニーワイズ”役のビル・スカルスガルド、“ルーザーズ(負け犬)クラブ”を、やはり前作で演じた子どもたちが続投し、くわえて彼らの大人時代を、ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステインら、新キャストが演じることで、現在と過去、二つの物語が描かれていくのが、本作の特徴である。

 とはいえ本作は、前作よりもさらに上映時間が増え、2時間49分という、ホラー映画としては異例の長尺となっている。それが影響しているところもあり、前作ほどにはオープニングの成績が落ち込んでいるというデータもある。しかし、なぜこんなにも長くなってしまったのか。ここでは、本作のホラー描写とテーマの関わりを考えながら、それを考察していきたい。

 子ども時代をもう一度同じキャストに演じさせた本作では、前作の撮影から2年経っていたため、外見が大きく変化した一部の出演者にCG処理を施し、変わらぬイメージでふたたび『IT/イット』を撮ることができたという。さらに、ルーザーズクラブの大人時代のキャストも、外見が似た俳優が集められたことから、本作にかける作り手の愛情が感じられるのだ。

 地元に残って大人になったマイク(イザイア・ムスタファ)の呼びかけによって再結集したルーザーズクラブは、中華レストランで久しぶりにペニーワイズの超常的な襲撃を受ける。さらにその後、ジェシカ・チャスティン演じる大人のベバリーが、少女時代に父と暮らした部屋を訪れるシーンから、それぞれの過去の恐怖をめぐる体験がスタートしていく。

 白眉なのが、ベバリーを歓待する老婆のハッスルぶりである。ベバリーが気づかないうちに、背後で全裸になっていたり、勢いよく踊っていたりと、やりたい放題。これもペニーワイズの差し金ではあるが、ある意味、ペニーワイズがピエロ姿で攻めてくるよりも強烈である。この一発目の単独への襲撃シーンが凄すぎたために、「この映画、まだまだこんな凄まじい描写が続いてしまうのか……」と、気が遠くなってしまうが、ここまでインパクトのあるキャラクターは出てこないので、安心してほしい。

 さらに、子ども時代に薬局で理不尽な目に遭っていたエディ(ジェームズ・ランソン)が、またしても薬局でとんでもなく理不尽な事態に陥ってしまうシーンからも分かるように、今回はかなりコメディの要素を強めているように感じられる。本作のホラー描写には、このようなユーモア感覚があることで、怖がりながらも楽しんで鑑賞することができるのだ。

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