『いだてん』が描いた“面白いこと”のための東京オリンピック 14年間を1話で描く猛スピード展開
そして今回何よりも印象的だったのは「la paix(平和)」という言葉。第1回で治五郎が駐日フランス大使からオリンピックへの参加を打診されたときにも「ぺ」が登場している。平沢の「そもそも皆さんがどうしてそこまで五輪に魅せられるのか。そこをお聞かせ願いたい」という問いの答えは、『いだてん』第1回から描かれ続けてきたのだ。
しかし政治は「ペ」だけを目標に掲げているわけではない。フィリピン遠征で、日本人は現地の人々から歓迎されなかった。それを見た政治は、彼らの中で戦争がまだ終わっていないことを知った。そして政治はこう言うのだ。
「我々が世界平和なんておこがましい」
「アジア各地でひどいこと、むごいことしてきた俺たち日本人は、面白いことやんなきゃいけないんだよ!」
ただ「ぺ」を伝えるだけなんておこがましい。政治が考えた、戦争が生んだ闇を背負いながらできることとは「面白いこと」、すなわち東京オリンピックの開催である。政治の言葉に「東京オリンピック開催が一番面白い」と豪語していた治五郎の姿を感じた平沢。平沢は最終スピーチを引き受け、東京オリンピック招致が決まる。
14年間が1話で描かれるスピーディーな展開に驚きだが、物語はここから東京オリンピック「開催」へと進んでいく。オープニングにも変化があった。ストップウォッチを止め、満面の笑みでこちら側に近づいてくる政治。政治が引き継いだ東京オリンピック開催という夢。それがいよいよ叶うのだ。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/