『凪のお暇』実は似た者同士だった黒木華と高橋一生 “母”の存在を前に、2人は変われるのか
「子どもって学習するよな。母親に笑ってもらうためには、何言ったらいいかって。んで、空気読んで。相手にとって都合のいい酸素になって、んで、いつのまにか自分が消える」
『凪のお暇』(TBS系)第8話。仕事も恋人もSNSも捨てて、自分自身を取り戻そうとお暇中の凪(黒木華)は、ひょんなきっかけから龍子(市川実日子)と共にコインランドリー経営という新たな夢を見つける。契約の日は、次の大安。龍子と共に貯金の大半である50万円を入金して、晴れてオーナーになるところまでこぎつけた。
また、モラハラキャラだった元恋人・慎二(高橋一生)も、実は自分のことが泣くほど好きだったのだと、ようやく気づく。凪と同じように空気を読み、読みすぎた結果同じように空気が吸えなくなった慎二。周りに気を使いすぎて、自分自身に向けた認識が“ひねくれ&ねじまがり“の似たもの同士だったのだ、と。
なぜ、ふたりが“空気を読む“ことに、こんなにも過剰になってしまったのか。それは、冒頭にある慎二の言葉が強く影響している。慎二の母親も世間体を守るために、夫の浮気に目をつぶり、動画クリエイターの長男を海外赴任していると隠し、仮面を被りながら生活を続けている。そして、凪の母親・夕(片平なぎさ)のコミュニケーションは、いつも凪に罪悪感を煽ることで、凪の行動をコントロールしようとするものだった。
凪が手をつけないトウモロコシを、有無を言わさずゴミ箱に捨て「かわいそう。凪が食べないからトウモロコシ、死んじゃった」と言い放ち、じっと見つめる。客観的に見れば捨てた(死なせた)のは母親なのに、凪は“自分のせいだ“と思い込む。
おそらく母親にとってみれば、凪をしつけているつもりなのかもしれない。周囲から「みっともない」と後ろ指をさされないように。だが、凪の中には意思を表に出せば、自分のせいで嫌な空気になるという印象だけが残る。
食べたくないトウモロコシをおいしそうにかぶりつく姿を見て、母親はしつけに成功したと思うかもしれない。ところが、そのしつけと称したものは、目の前の人に同調することで、それを回避できるのなら……と意思を消し、同調するクセがつくだけのことだ。
もしかしたら、母親自身もこの小さな村で空気を読んで生きてきたのかもしれない。人生ゲームで子どもはいらないと言っていた夕にとって、すごろくのように結婚・出産を語る人たちの中で息苦しい思いをしていなかったはずがない。
だが、そこから逃げる術もなく、パートナーは蒸発し、凪という娘だけが残った。凪が慎二にのっかって幸せを手にできると思っていたのと同様に、夕も凪にのっかろうとしていたのだろう。
凪は母親から逃げ、さらに会社という世間からも逃げることで、ようやく自分の「したいこと」、新しい幸せを見つけた。自分なりに新たな人生をリスタートさせるはずだった。だが、できなかった。
母親のリフォーム話に対して「今やりたいことがあるから」と話し、「いつか資金はちゃんと用意する」とまで交渉したのは、凪の成長。しかし、母親の醸し出す罪悪感を煽る空気をひっくり返すことまではできず、作り笑顔でトウモロコシをかじり、契約資金にするはずだった貯金を母親の口座に振り込んでしまう。