『いだてん』上白石萌歌が語る、偉人・前畑秀子との同化 「水泳にかける思いもリンクするように」
阿部サダヲ演じる田畑政治が主人公の第二部へと突入して、2カ月半が経った大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』。田畑率いる日本競泳陣が大旋風を巻き起こした1932年のロサンゼルスオリンピックのムードから一転、物語には徐々に暗い戦争の影が見え始めた。
そんな中、ロサンゼルスオリンピックで銀メダルを勝ち取りながらも、わずかの差で金メダルを逃したことを責められてしまうのが、上白石萌歌演じる前畑秀子だ。斎藤工、林遣都、大東駿介ら競泳陣を演じる役者たちが好演を見せるなか、一際大きな輝きを放っている。物語はこの後、伝説となった「前畑ガンバレ!」の舞台、ベルリンオリンピックへと突入していく。
現在まで語り継がれる偉人・前畑を上白石萌歌はどう演じたのか。撮影前の準備から、共演者とのエピソードなど、じっくりと話を聞いた(編集部)
どれだけ水泳に熱を注げるか
ーー役作りのため、水泳選手に肌の色や体型を近づけていったそうですね。
上白石萌歌(以下、上白石):日焼けサロンにも通ってなるべく当時の水泳選手の肌の色に近づけるよう準備をしていたんですけど、ロサンゼルスとベルリンオリンピックの名古屋ロケでさらに肌を焼いてしまって。ドーランがいらなくなるくらいには肌が黒くなり、前畑さんご本人に近づけた気がしてすごく嬉しかったです。
ーー肉体改造では7キロ増量したとのことですが、どのような食事を摂っていたのでしょうか。
上白石:食生活はサポーターの方が主に管理をしてくださったんですけど、一時期すごく運動をして食べる量も増やしているつもりなのに、体重の増加が停滞してしまった時期があって、その時にひたすら脂質を摂らなきゃいけなくなった時はつらかったですね。肉の脂身の多い部分だったり、夜中にパスタやお菓子もよく食べていたし、コンビニのショーケースで売っている唐揚げとか、食事も1日5回摂ったり、寝る前に食べたり。自分が太っていくのが嫌というよりかは、精神的につらかったです。でも、肉体からのアプローチによって、前畑さんの生き様を自分の中に自然と落としていく時間をいただけました。
ーー「前畑さんの生き様」とは?
上白石:1930年代は、まだ女性の地位もそんなに高くはなくって。女学校を出たら嫁ぐのが普通だった中、蔑むような酷い言葉はなかったですけど、セリフの端々で男女(おとこおんな)と言われていたり、きっとその時代、秀子も普通ではない扱いを受けていたんだと思うと胸が痛くなりました。日本人初の金メダリストとして、当時の女性進出に影響を与えた人であり、幼い頃に両親を亡くしている方でもあるので、強い信念だとか、水泳にかける愛情、そういった強さを持っている方だと思っています。
ーー『いだてん』の中で前畑は、役所広司さん演じる嘉納治五郎に並ぶほどの著名人ですが、そういった人物を演じるプレッシャーは?
上白石:前畑さんが物語にどれほど影響を与えていた人かというよりかは、自分がその役を全うできるか、短い期間の中で水泳に熱を注げるかとか、そういうことを考えていたので、あまりプレッシャーは感じてはいませんでした。撮影が終わって、第二部のキーパーソンとして私がテレビのなかで生きるんだなって思うと変な気分になります。
ーー演じていて前畑さんに共感する部分はありますか?
上白石:前畑さんは時代の星で、特別な女の子とされていましたけど、自身は普通の心を持った女の子でした。大会の直前に「勝てへん!」って控え室を走り回ったり、男子選手ならこの人がかっこいいよねみたいな話を女子部屋で繰り広げたり、そういった一面を持っている部分にすごく共感をしています。普通の心を持った1人の人間だし、プレッシャーも期待も不安もずっと胸の中にしまって戦っていたんだと思うとすごくその役にかける思いも膨れ上がっていく感じがしました。通ずる部分と言えば、もともと私も水泳が好きで、中でも平泳ぎが好きだったので、水泳にかける思いも、飛び込む前の目つきの変わり方もリンクするといいなと思って、私も水泳の練習に取り組んでいました。