黒島結菜×菅原小春、『いだてん』の“ヴィーナス”として輝く 現代まで続く自由への叫び

 第22回ではもう1人、今後の女子スポーツの物語に欠かせない「ヴィーナス」が登場する。人見絹枝(菅原小春)だ。富江たちがテニスの試合で岡山に遠征したときに出会う。男子たちから「男じゃ」とからかわれながら登場した絹枝は、終始俯いており、どこか自信なさげにも見える。だが試合が始まると、圧倒的な力で富江たちを打ち負かす。その強さは、四三が思わず「とつけむにゃあ(とんでもない)……」と呟いてしまうほど。試合後、シマ(杉咲花)は絹枝に「陸上をやってみませんか」と誘うが、絹枝はボソリと「勝ちてえと思うことがねえんです」と、彼女自身の強さと対照的な発言をした。ダンサーとして活躍する菅原のしなやかな動きと絹枝が抱えるコンプレックスが伝わってくるような自信なさげな台詞回しが、絹枝というキャラクターを印象づける。第22回では「陸上に誘いたい」というシマの思いは届かないのだが、彼女は後に「日本人女性初のオリンピック選手」となる。富江と絹枝、この2人の「ヴィーナス」は、女子スポーツの普及を描く今後の物語の主軸となるだろう。

 『いだてん』が描く時代から100年経った今も、富江と絹枝が押し付けられた「女らしさ」を求める声は変わらずにある。女性にとっても、そして男性にとっても、「らしさ
」を求められる旧態依然とした固定観念から解き放たれるために、富江のように旗を振り、四三のように声を挙げ続けなければいけないだろう。

 また前半の「おりん」話で、志ん生(ビートたけし)の妻・おりん(池波志乃)の馴れ初めが描かれた。真打昇進後もすさんだ生活を送る孝蔵(森山未來)に舞い込んだ見合い話。そこで出会ったのが清水りん(夏帆)だった。池波と夏帆の表情は驚くほどよく似ている。だが、穏やかだがシャンとしている“おりん”とは対照的に、夏帆演じる“りん”はウブな表情を見せ、だらしのない孝蔵にさっそく振り回されている。しかし、これから徐々に孝蔵と“りん”は、志ん生と“おりん”になっていくのだ。本作の主人公だけでなく、語り部が「昭和の大名人」へと変化を遂げていくのを想像するとワクワクする。今後も『いだてん』からますます目が離せない。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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