今まで知らなかった“東ドイツ”を目撃するーーベルリンの壁崩壊30周年に公開された2作品に寄せて

 一方、『僕たちは希望という名の列車に乗った』を手掛けたのは、『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』が世界で大ヒットを記録したラース・クラウメ監督。ベルリンの壁建設前夜に起きた驚愕の実話を映画化している。映画化へ動いた理由をこう明かす。

「『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』が自分でも予想できないぐらいの成功を収めて、うれしい反面、次へのプレッシャーがそうとうあったことは確か。周囲から期待されるからね(苦笑)。ただ、プロデューサーにはほんとうに自分がいいと思う脚本でないと作れないと宣言していた。

 そんな折、出会ったのがディートリッヒ・ガルスカのノンフィクション『沈黙する教室 1956年東ドイツ-自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語』だったんだけど、恥ずかしながらこんなことがあったなんて知らなかった。

 『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』の主人公フリッツ・バウアーはもっともっとドイツ国内で知られていい人物だけど、それなりに知っている人はいる。でも、今回の『僕たちは希望という名の列車に乗った』のエピソードに関しては、ドイツ人でさえほとんどが知らない。ということは世界では全く知られていないということ。確かにベルリンの壁崩壊前後のことはよく描かれいる。ただ、これは壁がまだできる前の話。ここら辺の時代、とりわけ東ドイツ側の状況はほとんど語られていない。これは世界に向けて発信しなければと思ったんだ」

ラース・クラウメ監督

 その実話は、時代は1956年、ベルリンの壁がまだできる前。東ドイツのスターリンシュタット(現在のアイゼンヒュッテンシュタット)の高校に通う高校生たちが、たまたま出かけた西ベルリンの映画館で自由を求めるハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を目にする。のちに民衆蜂起でハンガリー市民が多数死亡したこと知った彼らは、学校の教室で哀悼の意を表し黙祷を捧ぐ。しかし、東ドイツの体制においてハンガリー動乱は社会主義国家への反革命行為。人民教育相まで乗り出し、首謀者探しが始まる。こうして身の危険を感じた高校生たちの運命が描かれる。

「統制がかかっていた時代にあっても、自由な心をもって自分の意志を貫く若者が東ドイツにもいた。こんな若者が東ドイツにいたことに驚いた。そのことを知ってほしかったんだ」

 彼らのような存在があったからこそ、ベルリンの壁は崩壊へ動いたのかもしれない。ここで描かれていることからはそんなことを考えてしまう。ところでクラウメ監督自身はベルリンの壁崩壊を当時どう感じていたのだろう。

「正直なことを言うと、よく覚えていないんだ。というのは当時16歳だったと思うんだけど、イギリスの寄宿学校にいて、ドイツにはいなかった。もちろん大きなことではあったんだけど、東側に親戚など知り合いが数多くいるわけでもなかった。

 ただ、ドイツに戻ったとき、東ドイツの車が走ったりしていて驚いたことは憶えている。それぐらいで、なんか特別な感情を抱いたようなことはなかったね」

 この作品のように、まだまだ知られていない歴史のひとつを掘り起こした作品がコンスタントに発表されているイメージのあるドイツ映画界。だが、実際の現状はなかなか厳しいところがあるという。

「もちろん映画を作るというのは困難がつきもの。中でもこうした戦争や政治に関する映画を作るのは、ドイツであっても厳しい。資金が集めるのがすごく大変。ドイツのアカデミー賞で7部門を受賞しましたけど、次にこの作品が撮れるかわからなかった。こういうタイプの映画を作ることは常に戦いです」

 ヒトラーや戦争、東西統一だけではない。ドイツの歴史の新たな面を見せてくれる2人の作品に注目してほしい。

(文=水上賢治)

■公開情報
『僕たちは希望という名の列車に乗った』
Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開中
監督・脚本:ラース・クラウメ
出演:レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、レナ・クレンク、ヨナス・ダスラー、イザイア・ミカルスキ
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
(c)Studiocanal GmbH Julia Terjung
公式サイト:http://bokutachi-kibou-movie.com/

『希望の灯り』
全国順次公開中
監督:トーマス・ステューバー
出演:フランツ・ロゴフスキ、サンドラ・フラー、ペーター・クルト、アンドレアス・レオポルト、ミヒャエル・シュペヒト
配給:彩プロ
(c)2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH
公式サイト:http://kibou-akari.ayapro.ne.jp/

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