『Guava Island』は“資本主義と芸術”の物語に C・ガンビーノが活動終了を前に伝えるもの
資本家レッドによる搾取、そして「This Is America」翻案が示すように、『Guava Island』は資本主義と芸術の物語だ。資本家レッドの支配下に置かされた主人公が、音楽をもって島民に自由を感じさせようとする……そんな表現者の革命こそが主題なのである。リアーナ演じるダニの恋人コフィは、モノローグでこのように語っている。
「彼の夢はいつか島民を団結させる曲をつくり島の力を思い出させることだった
それがたとえ 一日であっても……」
『Guava Island』は、ガンビーノ・プロジェクトの終点を意識したであろう映画だ。この神話のような作品では、人々を翻弄してきたトリックスターのガンビーノが表現をとおして「人々に渡したかったもの」が垣間見える。
悲しい偶然だが、SNSでは、本作をニプシー・ハッスルの存在と比較する声も挙がった(※ニプシー・ハッスルは、地元コミュニティへの支援に励んだラッパーであり、2019年3月に銃撃され逝去)。映画がリリースされる直前、ガンビーノは「教会」と称したコーチェラ・ステージにおいて、自身の父、2018年に急死したマック・ミラー、そしてニプシーへ追悼を捧げている。
「去年、俺は父を亡くした。俺たちはニプシーを失い、マックを失った。気づき始めたんだ。最後の最後、すべてが終わったとき、俺たちに残されるのは記憶だけなんだと。データなんだよ。それは、子どもにも、友達にも、家族にも、渡すことができる。ミレニアル世代は膨大なデータを持ってる……まるで何かが起こるか知ってるかのように」
「ここには10万人くらいの人間がいる。その中の何人かは、来週にはもういないかもしれない。だから、ここに君がいる間、俺たちがいる間はーーなにかを感じ、それを渡していこう」
このガンビーノの言葉、そして『Guava Island』を受け取った我々は、何を渡していけるだろうか。
■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
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