ZENが語る、パルクールの本質と『HiGH&LOW』出演の真意 「危険なイメージを払拭したい」

パルクールと出会ったことで人生が変わった

ーーパルクールにおいて、もっとも大切なのは何ですか?

ZEN:パルクールには理論があるものの、明確なルールが定められているものではないので、自分で考えて判断していかなければいけない部分がたくさんあります。乗り越えるべき障害に対して、どのようにアプローチするか、その答えは無数にあって、例えば自分の身体をフィジカル的に鍛えることもできるし、テクニックを磨くことでより少ない力でクリアーすることもできる。障害に対してどのように向き合うか、そのスタイルによって自分を表現することも可能ですし、自分を成長させることだってできます。そういった意味で、パルクールは哲学だとも言われています。一番大切なのは、障害に向き合ったことで自分が何を学ぶことができるか、知らなかったことに気付けるかだと、僕は考えています。毎日練習に行き、新しいトレーニングに挑むのも、知らないことを知りに行くため、という感覚が大きいです。

ーー向き合うべき障害がその都度、違うのも、パルクールの魅力といえそうです。

ZEN:大会のコースも事前に教えられるわけではなく、毎回違いますからね。何を持って完成とするかも自分次第です。そこに競技としての面白さもありますし、日頃の鍛錬がいかに大切かも如実に現れます。どんなコースが出てくるのかは、プレイヤーにとっても楽しみなところですし、観客の方々にとっても、それぞれのプレイヤーがどんな風にその障害を乗り越えるのかの違いを楽しんでもらえると思います。

ーー海外でのパルクールの認知度はどれくらいなのでしょう?

ZEN:パルクール発祥の地であるフランスの近く、デンマークやイギリスなどは認知度が高く、単純に競技として盛り上がっているだけではなく、社会的に認められている部分もあります。特にデンマークでは早い段階からパルクールという競技の持つ精神性や健康への影響が評価されて、国家で推進していくスポーツに認定されています。そのため、国の補助金で街の一画にパルクール用の公園が造られたりしています。公園ではパルクールの選手はもちろん、ご年配から子どもまで、本当に幅広い層の方々がパルクールを楽しみ、様々な情報を交換しながら切磋琢磨しています。そういった状況に比べると、日本をはじめとしたアジア諸国では今なお危険なスポーツというイメージが強く、パルクールにおいては後進国と言わざるをえないと思います。実際には、対人競技などに比べればよほど故障は少ないし、死亡例なども他のスポーツとなんら変わりありません。パルクールの精神性を含めて、正しい知識が啓蒙できれば、日本でも徐々に広がっていくのではないかと考えています。

ーー現在、ZENさんはLDH所属のアスリートとなっています。LDHに所属したことで、どんなメリットがありましたか。

ZEN:自分の言葉でパルクールを伝えられるようになったことですね。僕は15歳からパルクールを始めて、翌年にアメリカに行き、現地のプロチームの人たちとともに学ばせていただきました。その後、高校卒業後に自分が何をしたいかを考えたときに、毎日をただ無為に過ごしていた僕に多くのことを教えてくれて、人生経験を積ませてくれたパルクールに対して恩返しをしたいと思うようになりました。僕の場合は、パルクールと出会ったことで人生が変わったので、まだ出会えていない人々に対して、正しくパルクールを知ってもらえる機会を増やす活動をすることにしました。当時、日本にはそのようなスタンスで活躍しているプレイヤーがいなかったこともあり、それなら自分がその役割を務めようと。そんな折に縁があってLDHと出会いました。LDHに所属したことで、『HiGH&LOW』シリーズへの出演はもちろん、多くの舞台など、本当に様々な場面でパルクールを広める機会を与えていただきました。こうしてメディアの方に取材する機会も増えて、自分の言葉でパルクールを語ることができるようになったことには、本当に感謝の念しかありません。たとえばCMなどで僕の技を観て、興味を持ってネットで検索した時に、僕のインタビューなどがあれば、パルクールがただのアクロバットではないことがわかってもらえるはずです。LDHのおかげで、とても意味のある活動ができていると感じています。

ーー広島にて、4月19日から21日にかけて行われる都市型スポーツの世界大会『FISE Hiroshima 2019』は、パルクールを多くの人々に知ってもらうチャンスだと思います。日本を代表する選手として、意気込みを教えてください。

ZEN:日本でパルクールの大会は久しく行われていませんでしたが、昨年度より広島で『FISE』が開催されることになり、ようやくスポーツとしてもカルチャーとしても注目を集めつつあります。パルクールの魅力を知る上で、やはり生で観戦するのに勝るものはないと思うので、ぜひ会場に足を運んで観てほしいです。会場に来てくれた方には、日本人が世界に挑戦している姿をしっかりと見せたいです。パルクールは競技よりも文化としての側面が大きいとは言いましたが、もちろん勝って表彰台に登るつもりで挑みます。中国の大会を皮切りに年間チャンピオンを狙うので、ぜひ応援に来てください。

(取材・文=松田広宣/写真=林直幸)

■イベント情報
『FISE Hiroshima 2019』
日程:2019年4月19日(金)~21日(日)
場所:旧広島市民球場跡地
公式サイト:https://www.fisehiroshima.jp/

関連記事