『まんぷく』は時代が求めた朝ドラだったーー「天才」を支える仕事に込められた大きなロマン

 そして、もう一点。一部では「萬平のほうがヒロインみたいで、福子は応援するだけ」「福子が究極のマネジメント能力を発揮するのはいつなのか」という指摘が根強くあった。しかし、こうしたヒロインのあり方こそが、従来の朝ドラに求められてきたヒロイン像との違い、時代の変化が求めるものなのではないかと思う。

 「究極のマネジメント能力」というフレーズに、まるでビジネス本が描くようなものを想像・期待する人は確かにいた。そういった意味では、福子の「マネジメント能力」は、萬平の発明に比べて、華々しくはないかもしれない。

 かつては、ひたすら頭を下げて資金繰りに尽力したり、逮捕された萬平を釈放してもらうために奔走したり。ラーメン編に入ると、「一番大変なのは毎日の食事を考えること」という福子の言葉から、萬平が「即席めん」のアイデアをひらめいたり、福子の「食べ歩けるヌードルの価値がわかるのは、頭のやわらかい若者たちなのではないか」という発想の転換から、まんぷくヌードルがヒットしたりと、「きっかけ」を生む役割を担っていた。しかし、あくまで活躍するのは萬平である。

 そうした関わり方を物足りなく感じる女性視聴者がいるのは、わからないでもない。かつて『ちりとてちん』で初の女性落語家となったヒロインが、落語家を廃業し、一門のおかみさんになっていった結末には、批判が多数寄せられたこともあった。

 朝ドラヒロインは、長い歴史の中で、社会進出を進めてきた。かつての朝ドラは「ヒロイン至上主義」が当たり前の価値観としてあり、「なんでもヒロインのおかげで解決する」時代もあった。

 翻って、現在の世の中を見渡してみると、今もなお女性管理職は少ないし、決して平等と言える状況ではない。とはいえ、現代は「女性も働くのが当たり前」の時代。低成長時代で上昇志向を持ちにくい現状では、大きなことを成し遂げるのではなく、「自分にできる仕事を誠実に全うすること」で自己実現を叶える女性が多いだろう。

 ましてその「自分にできる仕事」が「画期的な商品を生む天才」を支える仕事だとしたら? そこにはとてつもなく大きなロマンがあるし、ヒロインが「自分が、自分が」で先頭を突っ走る物語よりも、美しく見える面もある。

 『まんぷく』に登場する女性たちは、英語が堪能な福子も、大阪帝大卒の姪のタカちゃん(岸井ゆきの)も、優秀な能力を持ちながら、その能力を表舞台で活用せず、支える立場にまわっていく。確かに、現代に生きる私たちから見れば、これは惜しい。もったいない。

 でも、どんな苦境でも、ときには仕事に没頭しすぎてマッドサイエンティスト化する萬平を目の当たりにしながらも「萬平さん、萬平さん」と言い続け、盲目的なほどに信じ続ける福子を見て、多くの視聴者は思ったことだろう。「こりゃ、福子じゃなきゃ、支えられないわ」と。

 そして、そんな福子に折々で「福子がいなければできなかった」と感謝の言葉を伝え続ける萬平。その言葉は、マネジメントする立場にとって何よりのご褒美だろう。

 最終回ではまんぷくヌードルの大ヒットを機に、仕事をいったん休み、世界中の麺を食べる旅行に出る二人が描かれた。でも、これは二人にとってゴールではない。まだまだ新しいことを考え続ける天才がいて、それをワクワクしながら見守り、支えていけるヒロインがいる。

 これ以上ない、現代的な幸せのかたちが描かれた『まんぷく』最終回だった。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『まんぷく』
作:福田靖
出演:安藤サクラ、長谷川博己、松下奈緒、要潤、大谷亮平、桐谷健太、瀬戸康史、岸井ゆきの、松井玲奈、深川麻衣、中尾明慶、毎熊克哉、加藤雅也、牧瀬里穂、西村元貴、松坂慶子ほか
語り:芦田愛菜
制作統括:真鍋斎
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/mampuku/

関連記事