『バンブルビー』に継承された“スピルバーグ・イズム” 格闘アクションはシリーズ最高の完成度に

 『バンブルビー』(2018年)は『トランスフォーマー』シリーズに登場する人気キャラクター「バンブルビー」のスピンオフであり、前日譚でもある(ですがシリーズを観ていなくても大丈夫なように配慮されているので、シリーズ未見でも心配無用です)。監督は『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)などの傑作アニメを手掛けてきたトラヴィス・ナイト。主演は女優で歌手のヘイリー・スタインフェルドだ(主題歌も彼女が担当!)。

 舞台は80年代のアメリカ。父を亡くして以来、人生が迷走気味の悩めるティーンの少女、チャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、ある日スクラップ同然の黄色いビートルを見つける。自分の車として持ち帰るが、実は黄色いビートルは宇宙からやって来た金属生命体=トランスフォーマーだった。チャーリーは記憶を失っている彼に「バンブルビー」という名を与え、互いの隙間を埋め合うように絆を深めていく。騒々しくも楽しい日々を重ねるうち、チャーリーは少しずつ明るさを取り戻していくが、そこに悪の手が迫る……! 

 あらすじからも分かるように、本作は完璧なSFジュブナイル映画である。魅力的なキャラクターに、ワクワクとドキドキの大冒険、かっこいいアクションに可愛らしいユーモア、気の利いた80’sポップミュージックが揃った、皮肉ではなく心の底から「ご家族そろって、お楽しみください」と胸を張れる映画だ。そして同時に、いわゆるブロックバスター系の映画でも、作り手によってこんなに違いが出るのかと驚愕する作品でもあり、同時にスティーヴン・スピルバーグというハリウッドの巨星の力が垣間見える1本でもある。

 これまで同シリーズはハリウッド最強の爆発野郎マイケル・ベイが監督していた。しかし、ここで忘れてはならないのは、最初の『トランスフォーマー』(2007年)はプロデューサーとしてスティーヴン・スピルバーグが強く関わっていた点だ。同作はもともとスピルバーグが監督する予定だったそうだが、諸々の事情でキャンセルとなり、代わりにベイが監督に指名されたのである。このため同作はベイ映画である一方、スピルバーグ色も非常に強い。未知なる存在と人類の邂逅、それを通じて成長する思春期の少年、ドタバタ家族に、淡い恋愛模様などなど、シリーズで最もジュブナイルしており、スピルバーグ・イズムが強い。むしろ作品の礎はスピルバーグであり、そこにベイの必殺技(米軍全面協力のド派手なアクション、スタイリッシュ演出、「これは人じゃなくてロボットやから」を建前に許される残虐ファイト)が乗っかっている形だ。つまり初めから『トランスフォーマー』シリーズはスピルバーグ・イズムが基礎にあったと言えるだろう。

 しかし、シリーズは回を重ねるごとに良くも悪くもベイの色が濃くなっていった。ベイの色とは、つまり混乱である。主役は人間でもロボットでもなく、「戦場」そのもの。銃弾やミサイルが飛び交い、あちこちで爆発して、人もロボットもキレ散らかしながら戦う。そういう混乱した空間自体が主役であって、だからこそ足りない部分もあったし、だからこその魅力もあった。とは言えベイだって人間。さすがに戦場を描き続けるのに限界が来たらしく、数年前から何度もシリーズ卒業宣言をしていた。それでもなかなか卒業しなかったのは、恐らく商業的な理由だろう。

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