ジョージ・クルーニー監督の作家性が光る いま語られるべき映画『サバービコン』のメッセージ
シュールなコメディーとシリアスなテーマ
本作は、もう一つの家族模様も描く。マイヤーズ家の隣に住む白人のロッジ一家だ。こちらは対照的に“幸せな町”を象徴し、広告に出演するような姿をした白人の家族だ。だがそんな家庭に、ある夜、強盗が侵入してきたことをきっかけに、次第にこの家族の欺瞞が暴かれていくことになる。
ここで巻き起こる連鎖的事件は、コーエン兄弟による脚本部分である。じつは本作はもともと、『ファーゴ』(1996年)や『バーン・アフター・リーディング』(2008年)のようなシュールなコメディーの要素を含んだ犯罪映画になるはずの企画だった。本作のジョージ・クルーニー監督は、その内容にレヴィットタウンの実際の事件を盛り込むことで、異なるテイストを含んだ映画にすることを思いついたのだという。
悪いことなど何もしていないのに、特定の人種であるということで迫害される一家と、表向きは中流的なアメリカンドリームの象徴のようでいて、じつはおそろしい闇を抱えている一家。この皮肉な対比によって、クルーニー監督は、よりシリアスな映画に本作を作り変えたのだ。
ジョージ・クルーニーの政治思想が強く反映
2018年、もっとも稼いだ俳優としても知られる、セレブリティの代表格として知られるジョージ・クルーニー。彼は俳優や監督として活躍する一方で、銃規制活動や、LGBT理解への協力、トランプ大統領の政策への反対の表明など、リベラルな社会運動を継続して行っている。2012年には、スーダンの人権問題への抗議として、スーダン大使館前でデモに参加して逮捕されたことがあるなど、その活動はかなり積極的だ。
そういった姿勢は、映画にも影響している部分がある。監督・主演作の『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014年)では、ユダヤ人を迫害したナチスドイツの蛮行に対し、映画の枠を超えるような演技で、演説にも近い、反差別の長いセリフを発している。そこには、いまもって根強く残る差別への“怒り”が込められている。
そして実際の事件を組み込むという、本作『サバービコン』での試みもまた、まさにその怒りによるものだろう。それは、トランプ大統領が掲げる「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンに代表される、現在の復古主義への反動にもなっている。一部の白人の唱える、復古すべき「旧き善きアメリカ」とは、誰かを犠牲にすることで作られる、欺瞞に満ちたものだということを、本作でクルーニーはうったえているのである。