無精髭を生やし、山中で孤独な炭焼きに励む 稲垣吾郎が紡ぐひとつの“半世界”をのぞき見る
稲垣吾郎が、炭焼き職人・高村紘として生きる『半世界』。監督の阪本順治は「“半世界”というのは、ハーフ・ワールドではなく、アナザー・ワールド」だと語った(参照:映画『半世界』阪本順治監督「映画は物語ではなく人語(ひとがたり)」【インタビュー】 | FILMAGA)。本作では、地方都市を舞台に、名もなき小さな営みを描き出し、そこからもう一つの世界を見ようというのだ。
紘(稲垣吾郎)は、父から製炭業を継ぎ、妻と息子と細々と暮らしていた。そこに、自衛官を辞め、妻子と別れたという同級生の瑛介(長谷川博己)が帰ってくる。ふたりと幼なじみで、中古車販売を自営でしている光彦(渋川清彦)と共に、久しぶりの再会に喜ぶ3人。だが、瑛介には何か心に傷を抱えているように見える。なんとか瑛介に向き合いたいと近づく紘と光彦だったが、壁を作られてしまう。引きこもる瑛介を外に出すため、紘は「俺の仕事、手伝えよ」と、声をかけて……。
スクリーンに映し出される稲垣は、これまで多くの人が知る彼のパーソナルイメージとは大きく異なる。無精髭を生やし、がさつにニット帽を被る。ドアを強くノックして、遠慮する友に「甘ったれんじゃないよ」と大きな声を出す。その風貌、その仕草一つひとつに対する圧倒的な違和感が、むしろ現実社会の稲垣とは異なる、紘の人生=アナザー・ワールドに強く引き込まれる。高級ワインではなく、徳用の焼酎ボトル。多くの観客が見守るショーではなく、山中での孤独な炭焼き。多くの女性をときめかせるジェントルマンな立ち居振る舞いはもちろんなく、家庭のことは妻の初乃(池脇千鶴)に頼りきりで、反抗期の息子・明(杉田雷麟)との関係も雲行きが怪しい。
一方、仕事には真面目でまっすぐな紘。自分の身長より遥かに高いウバメガシをチェーンソーで切り倒し、ワイヤーにくくりつけてクレーンでトラックに積み、窯に運ぶ。1000度以上にもなる炎を見つめ、タイミングを図って炭をかき出す。まだ火花が散る炭に、大きなスコップで灰をかけて……を繰り返す。現代的な機械は必要最低限しかない。昔ながらの器具での人力頼み。39歳、代わり映えのない日々に見えて、ふと、息の上がる体に年齢を感じるのだった。