『ミスター・ガラス』が描く異色のヒーロー像 シャマラン監督初“ユニバース作品”に潜むテーマとは
1月18日より日本公開された『ミスター・ガラス』は、国内はもちろん世界興収も右肩あがり。M・ナイト・シャマラン監督初の“ユニバース作品”として、非常に良い成績を収めている。実は、彼は前作の『スプリット』、そして本作を全て自分の資金で制作しているのだが、ご存知だっただろうか?
この『ミスター・ガラス』は19年前に公開された映画『アンブレイカブル』の続編である。さらに、2017年に公開された『スプリット』の系譜も踏む作品となっており、本作から鑑賞する方にとっては近年多いヒーローもののシリーズ映画のように「あのキャラがわからない」「前作との繋がりも知らない」と、実はハードルが高いように思える。
なので、本記事は『ミスター・ガラス』鑑賞にあたって、前2作を踏まえて知っておくべきポイントを、この3作品をこよなく愛する私がお送りする。
※本記事には『アンブレイカブル』および『スプリット』両作品の結末に関するネタバレが記載されています。
『アンブレイカブル』:ヒーローの可能性と黒幕の狂気
デヴィッド・ダンのスーパーパワー
『アンブレイカブル』は、未だかつてないほど悲惨な列車事故で唯一“無傷”で生き残った男デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)の物語。彼は、奇跡の生還者として新聞に取り沙汰されたが、医者も彼も自分にかすり傷ひとつ付いていないことに疑問を覚える。そこから、彼はどうやら“unbreakable(破壊不可能)”な男であることが判明する。
デヴィッドのパワーはそれだけではない。彼は、手で触れた人間のヴィジョンを見ることができる。なので、悪事を行っている人間を触るだけでわかるのだ。そんな“特技”を利用して、自警団的行動をとりはじめたデヴィッド。しかし、どんなスーパーパワーの持ち主にも“弱点”がある。デヴィッドの弱点は、水だった。
父と子の友情
並の人間では持ち上げることができない重さのダンベルを、デヴィッドは持ち上げる。それを目撃した息子は、父のそれを「スーパーパワー」だと確信した。デヴィッドは自分の能力を人に言わないように、と息子に口止めをする。ここから、デヴィッドの唯一の理解者が息子であり、息子は彼なりに父親を守る構図が生まれた。この構図は、『ミスター・ガラス』に全面的に表れている。
息子・ガラスに対する母の想い
さて、『アンブレイカブル』の主要登場人物はもう一人いる。イライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)だ。彼はコミック画商を生業としている男だが、ある特徴があった。それは、“生まれた時から”骨折をしていたこと。骨形成不全症という難病を患っていて、身体がありえないぐらい弱いのだ。そんな彼は、いつからかパワーを持つヒーローやヴィランを描く、アメコミの世界にのめり込んでいった。
そのきっかけとなったのが、彼の唯一の肉親であり誰よりも彼を愛する母親だ。彼女は病弱で引きこもっていた息子に外に出てもらうために、家の中から見えるベンチにプレゼントを置く。イライジャが勇気を持って取りに行くと、それはアメコミだった。「結末はどんでん返し」と言いながら、外出する度に一冊ずつコミックをイライジャに渡す母。
彼女は、彼の特異さを理解した上で、誰でも勇気を持てば自分のなりたいヒーローになれることを、弱い彼に教えたかったのではないだろうか。『アンブレイカブル』では彼女がイライジャの愛するコミックの、特にヒーロー論とヴィラン論について深い理解を持っていることがわかる。
映画史に残るヴィラン像、誕生の瞬間
映画の結末は、どんでん返しだった。イライジャのアドバイスによって、人を救う“ヒーロー”となったデヴィッド。しかし、友となった彼と握手をした時、列車事故を含めた一連の事件が、イライジャによって仕組まれたものだったことが明かされる。彼は、マスター・マインド(黒幕)だったのだ。
イライジャは超能力を持つヒーローの存在を信じ、これらの事件を引き起こすことによってそれを探し出そうとしていた。つまり、ここで「ヒーローを求めてヴィランが生まれる」という、映画史に残る構図が誕生したのだ。彼はデヴィッドに「最も恐れること、それは自分の居場所がわからないことだ」と語る。自分の存在理由とは、何か。それを問い続けたイライジャの答えが『ミスター・ガラス』で描かれることになる。