『下町ロケット』は現代版『プロジェクトX』? 日本人の琴線に触れる普遍的なドラマ
メガバンクで繰り広げられる、権力闘争を描いた本作は、主人公の銀行員・半沢直樹(堺雅人)の「倍返しだ!」という台詞が話題となり、最終回の平均視聴率が42.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という、お化けドラマとなった。それ以降、池井戸潤の原作小説は日曜劇場を筆頭に様々なテレビ局で引っ張りだことなるのだが、この『半沢直樹』の成功だけでは、今の池井戸潤ブランドの盤石さは生まれなかったのではないかと思う。
おそらく『半沢直樹』は池井戸潤作品の中でも特殊な位置づけで、同時期にヒットした連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)と同様、2013年に日本人が感じていた東日本大震災以降の鬱屈した空気を鋭くえぐったからこそ、あれだけ多くの視聴者を巻き込んだのだろう。まぐれ当たりとまでは言わないが、おそらくチーフ演出の福澤克雄を中心とするドラマチームにとっても、再現不可能な、奇跡の作品だったと言えるだろう。
その意味でも、本当の意味での、日曜劇場における池井戸潤ドラマの必勝パターンを確立したのは、その次の『ルーズヴェルト・ゲーム』で、そしてこの『下町ロケット』だ。横暴な大企業と、そこに立ち向かう中小企業。そして間で蠢く銀行と外資系企業、池井戸潤のドラマは大体この4者の関係と、主人公の家族のドラマで成り立っている。当初は組織の汚職に立ち向かう個人というモチーフが強く出ていて、『半沢直樹』ではメガバンクの内部闘争が物語の中心だったが、『ルーズヴェルト・ゲーム』では、社会人野球と会社の立て直しのドラマが同時進行で進み、最終的には、ものづくり精神が問題解決に向かうという結末となっていた。
つまり、組織内で潰し合うのではなく、技術革新が人々を救うという前向きな方向へと舵を切ったのだ。この路線は『下町ロケット』、『陸王』にも引き継がれていき、物語の中心にいる人々も、中小企業の社長と工場で働く技術者たちへと変わっていった。
『下町ロケット』や『陸王』を見ていて思い出すのは、2000年代にNHKで放送されていた『プロジェクトX~挑戦者たち~』だ。本作は、終戦直後から高度経済成長期に起きた、製品開発プロジェクトの内幕を紹介するドキュメンタリーで、そこに登場する人々の多くは無名の技術者たちだった。『下町ロケット』のカタルシスは、さながら現代を舞台にした『プロジェクトX』と言えるだろう。これがフィクションでしか見ることができなくなっていることに、今の日本の厳しい現状が見え隠れするが、だからこそ、多くの日本人の琴線に触れる普遍的なドラマとなったのだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
日曜劇場『下町ロケット』
TBS系にて、10月14日(日)スタート 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:阿部寛、土屋太鳳、竹内涼真、立川談春、安田顕、和田聰宏、今野浩喜、中本賢、谷田歩、朝倉あき、真矢ミキ、木下ほうか、恵俊彰、池畑慎之介、倍賞美津子ほか
原作:池井戸潤『下町ロケット ゴースト』(小学館刊)
脚本:丑尾健太郎
プロデューサー:伊與田英徳、峠田浩
演出:福澤克雄、田中健太
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/shitamachi_rocket/