美しい殺陣に息を飲む 『散り椿』の岡田准一はジャニーズであることを忘れさせる

 そんな傑作の主演を務める岡田は、着実に俳優としてのキャリアを積み上げてきてきたジャニーズ俳優の1人だ。昨今は、特に映画の出演が目立っているのではないだろうか。『SP 』シリーズや『図書館戦争』シリーズなどの比較的ポップなものはもちろん、歴史モノ作品への出演も増えており、実に幅広い活躍を見せている。直近では2017年に公開された『関ヶ原』での、鬼気迫る演技が印象的。その迫力は見事なものだったが、強いだけではなく時折見せる優しさや弱さも繊細に表現することで、人間味溢れる石田三成を蘇らせていた。

 『関ヶ原』が「歴史好きが満足できる時代劇」だとすると、今回の『散り椿』は「歴史好き以外も満足できる時代劇」のように感じる。例えば、時代劇の醍醐味である殺陣。岡田の殺陣は力強くて美しく、終盤に刺客を切り倒していくシーンは思わず息を呑んでしまうほど。これには時代劇ファンも納得だろう。

 そんな一方で、根底にあるラブストーリーからも目が話せない。新兵衛から篠へ、采女から篠へ、里美から新兵衛へ……。様々な場所で展開される愛の物語は、時代劇に精通していない人も十分に楽しめる内容で、中でも不器用ながらも確固たる信念を持っている新兵衛が、篠へ向ける真っ直ぐな愛情は切なさを感じるほどだ。

 篠が采女に送った手紙で彼女の本当の気持ちを知った時の切ない表情や、自分を責めるような表情が作れるのは、さすが岡田准一である。殺陣、侍の風情、時代劇セリフの言い回し、愛情を表現する切ない表情、全てを巧みにアウトプットできるのは、様々な作品で演技力を磨いてきたからこそだ。実際、『散り椿』を鑑賞して「アイドルとは思えない」という感想を持った人も多いのではないだろうか。かく言う筆者も、エンドロールの「ジャニーズ」という文字を見るまで、岡田がジャニーズタレントということを忘れていたほどだ。

 時代劇ファンも岡田准一ファンも満足させる演技力を持っている岡田は現在、12月7日にホラー映画『来る』、2019年には殺し屋を演じる『ザ・ファブル』の公開を控えている。両作とも『散り椿』とはガラリと違った作風。この先も、幅広い役柄で彼の演技を堪能しつつ、これまでになかった新しい“岡田准一”が見れることを楽しみにしたい。

(文=高橋梓)

■公開情報
『散り椿』
現在公開中
出演: 岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、緒形直人、 麻生久美子、富司純子、奥田瑛二ほか
原作:葉室麟『散り椿』(角川文庫刊)
監督・撮影: 木村大作
脚本:小泉堯史
製作・配給:東宝
(c)2018「散り椿」製作委員会
公式サイト:http://chiritsubaki.jp/

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