赤名リカの想いは現在と地続きに 『東京ラブストーリー』が特別な存在になった理由

「物欲的なトレンディから地味な純愛路線」

 原作は柴門ふみの同名漫画。脚本は坂元裕二。プロデューサーは大多亮。『最高の離婚』(フジテレビ系)や『カルテット』(TBS系)等で知られる坂元裕二の初期代表作であり、最大のヒット作だが、核となる部分を作ったのは大多亮だろう。

 大多は山田良明と共に、『抱きしめたい!』等のトレンディドラマを産み出したフジテレビのプロデューサーだ。そのため『東京ラブストーリー』も、トレンディドラマの枠組みで語られることが多い。だが大多自身は、同時期に制作した『すてきな片想い』、『東京ラブストーリー』、『101回目のプロポーズ』を、トレンディドラマから離脱し「物欲的なトレンディから地味な純愛路線」へ向かっていく時期の作品だったと、自著『ヒットマン テレビで夢を売る男』(角川書店)の中で語っている。

「キーワードは“一途な想い”。今までのトレンディドラマが華麗な多重恋愛をしながら、“よりいい恋”を探していたのに対して、ここでは、届かないかもしれないけど、決して揺れない、一途な恋を描いていこうと思ったのだ。」(同書)

 これは『すてきな片想い』に対する言及だが、『東京ラブストーリー』も同じテーマで作られている。もっとも、『東京ラブストーリー』の「純愛路線」は、「赤名リカの視点から見て」という保留が必要だろう。大多は、ドラマ化するにあたって、リカを中心に添えて性格を少し変えている。漫画版のリカは、地方出身のカンチにとっては東京とイコールの存在で、エキセントリックな言動で周囲を振り回す、男にはコントロールすることのできない愛情に飢えた猛獣だ。

 対してドラマ版のリカは当時の鈴木保奈美のイメージに合わせてか、口では先進的なことを言っていても、その内面はメソメソしている。今見ると、かなり痛々しいのだが、その無理している感じが魅力となっている。個人的には漫画版のリカに魅力を感じるが、多くの視聴者が感情移入しやすかったのは、ドラマ版のリカだろう。

 リカは、1986年の男女雇用機会均等法施行後に社会に出た、恋と仕事を自由に謳歌する(と同時にその自由ゆえに悩んでいる)ヒロインだった。だからこそ、月9の主要視聴者であるF1層(20歳から34歳までの女性)から絶大な支持を獲得したのだろう。

 また、トレンディドラマがファッション雑誌のようなオシャレなライフスタイルを生きる男女の姿を描いていたのに対し、『東京ラブストーリー』は愛媛から上京してきたカンチが東京の象徴であるリカに翻弄されるという構造になっている。カンチにとって東京は田舎から見たら、きらびやかだが遠い(トレンディドラマ的な)世界だ。これはクライマックスで、カンチがリカを探すために帰ってきた故郷の愛媛の描き方と比べると、とてもよくわかる。

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