渡辺あや脚本の京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』が問いかける“見えない壁”

 例えば、学生たちは、寮存続のための抗議を行うため、学生課の窓口に行く。そこにいるのは、山村紅葉演じる寺戸という表情ひとつ変えることなくどんな波をも吸収してしまう職員(通称・寺戸ポット)だ。ただ、寺戸をいくら倒しても、学生たちは、その次にいる担当者や、その上にいる学生部長、そして大学にたどり着き、直接対話をすることはできない。寺戸を倒しても、また寺戸の代わりの窓口が現れてその新しい担当者と同じように闘うだけだ。このことに気づいた学生たちは虚無感から運動をあきらめざるを得ないのがせつない。

 大学の学生寮に壁はあるが、その壁の向こうの本当の敵の存在は見ることすらできない。この巧妙な構造は、たぶん至るところにある。こうした状況を知ってしまうと、情熱だけでやっている間は、反発できるかもしれないが、この構造に気づきいろんなものが見えてしあまった者は、むなしさを感じて戦意を喪失してしまう。考えれば考えるほどに戦意喪失する構造になっているのだ。

 大学のことを「本当の敵」と書いたが、こうして敵に対して動いている人を戦闘的な人間と感じ、敬遠してしまう層というのも現実にたくさんいる。何もおこさないのが平和という考え方が主流になってしまうのも歴史を考えれば理解はできる。そして、これらのことも、「壁」や「問題の本質」が見えにくくなっている構造とも深くかかわっているだろう。

 このドラマの良いところは、そうやってすべてが見えたことで虚無感を感じてしまった人を描きつつ、それで終わらないためにはどうすればいいのかを考えるためにあることだ。

 多くの映画では、まったく反対のAとBの例を提示して、どっちもありですよねとか、どっちが正しいと思いますか?などと問う終わり方にして、疑問を投げかける形を取る。しかし、このドラマの場合は、どっちが正しいか、などということを投げかけているのではない。本当に真剣に考えないとどうにかなってしまうかもしれないくらいの切実な問題や、日本に横たわる見えない壁について、深く問いかけていると感じるのだ。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
京都発地域ドラマ『ワンダー・ウォール』
NHKBSプレミアムにて、8月25日(土)16時〜放送
出演:須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、成海璃子
脚本:渡辺あや
演出:前田悠希
音楽:岩崎太整
制作統括:寺岡環
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/kyoto/wonderwall/

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