田中圭のブレイク後押しした『おっさんずラブ』 放送後も衰えぬ人気の理由は“優しい世界”にあり
脚本家・徳尾浩司の“ゆるい公式”的スタンスの妙
そして、放送終了後から2カ月近く経過した今も、作品のためにつくった「専用垢」(ある目的のためだけに使う専用アカウントのこと)が「死垢」(すでに利用していないアカウントのこと)にならないもうひとつの理由に、脚本家の徳尾浩司氏の存在がある。
もともと放送中から飄々としたツイートで愛されていたが、放送終了から1週間後、「民」の間で水面下に進行していた「架空の第8話をみんなで実況する」という計画に、徳尾氏自らが参加。本編の脚本家にしかできないつぶやきで「民」を歓喜させた。これにより人気が爆発。その後も作品解説的ツイートにとどまらず、「民」からのボケに切れ味鋭くツッコんだり、ユニークな親しみやすさで「民」と交流を深めている。
さらにそれだけでなく、いい意味でガス抜き的役割を果たしているのが、徳尾氏の絶妙なところ。大量にグッズが展開される中、一部、さすがの熱心な「民」も「これはちょっと…」というアイテムが発表されたときがあった。そんなとき、すかさず徳尾氏が「僕が言うまでもないことですが、お金は大事にしてください。よく考えて。本当にいるのかいらないのか、これおかしいんじゃないかとか。笑」とツイート。本来なら「公式」と呼ばれる立ち位置の徳尾氏がコミカルに「公式」をディスることで、「民」の間に芽生えたプチ不満が昇華された。
長く関係を続けていく中で、制作・運営サイドとファンの間で齟齬が生まれるのは、ドラマ業界に限らずよくある話。だが、「公式」でありながら「公式」ではない“ゆるい公式”と呼べる存在がいることで、「公式」に対する疑問や不満のガス抜きが果たされる。徳尾氏本人がどれほど意図しているかは定かではないが、ファン心理を心得た徳尾氏の軽妙なツイートが、「民」が今なお「専用垢」にログインし続ける理由のひとつとなっている。
差別やマウンティングのない“優しい世界”
放送終了時、一部マスコミの間で「おっさんずラブロス」なる言葉が名付けられようとした。しかし、本作に関して言えば、あまりロス的現象は感じられない。むしろ依然として「この世界は続いている」というのがファンの実感に近い。上に挙げたようなSNS上での密度の濃いコミュニケーションが、その要因となっているのは間違いないが、では一番の理由かと言われれば、やはりそうではない気がする。
結局のところ、衰え知らずの『おっさんずラブ』人気の最大の要因は、やはりその“優しい世界”にあるのだろう。杉田水脈議員の発言に象徴される通り、LGBTは2018年の日本社会においてデリケートな問題だ。心ない言葉の裏側で苦しんでいる人も大勢いる。
しかし、『おっさんずラブ』の世界には、こうした無遠慮な差別はほとんど描かれなかった。それどころか人の恋路を邪魔するために悪巧みを謀ったり、ストーリーを盛り上げるために陰湿な暴力や心痛める事件を盛り込むこともなかった。誰もが安心して、この“優しい世界”に浸ることができた。
そんな作品世界の影響か、「民」同士のSNS上での交流も非常にハートフルだ。特に盛んなのが、本編の内容をもとにした二次創作と、大喜利的なハッシュタグツイートだが、ネットでありがちなマウンティングや罵詈雑言はほとんど見受けられない。各自が寛容に愛で、「民」同士が愛とリスペクトをこめて「いいね」を押し合っている。
現実の世界は、こんなに優しくはない。一歩踏み出せば、傷つく言葉が容赦なく襲いかかってくるし、不要なものはすぐに「生産性がない」と切り捨てられる。そんなストレスフルな現代で、安心して自分を出せる場所。生産性なんてなくていいから、我慢せずに愛を語れる場所。それが、『おっさんずラブ』という世界なのだ。
“終わらない『おっさんずラブ』ブーム”の裏側には、他者への攻撃性ばかりがエスカレートする現代において貴重な「人の優しさ」がつまっている。
■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002
■リリース情報
『おっさんずラブ』
10月5日(金)Blu-ray&DVD発売、レンタル全4巻同時リリース
<Blu-ray>
価格:21,600円+税
<仕様>2018年/日本/カラー/本編+特典映像&音声特典(収録分数未定)/16:9LB/1層/音声:リニアPCM2chステレオ/字幕:なし/全7話/5枚組(本編Disc4枚+特典Disc1枚)
<DVD>
価格:17,100円+税
【仕様】2018年/日本/カラー/本編+特典映像&音声特典(収録分数未定)/16:9LB/片面1層/音声:ドルビーデジタル2.0chステレオ/字幕:なし/全7話/5枚組(本編Disc4枚+特典Disc1枚)
※仕様は変更となる場合がございます。
【特典映像】
★おっさんずラブ2016
★記者会見
★PRスポット集ほか(予定)
【音声特典】
出演者による本編副音声を収録!
#2…田中圭×林遣都
#6…田中圭×内田理央×瑠東東一郎×Yuki Saito
※収録内容は変更となる場合がございます。
出演:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
主題歌:スキマスイッチ『Revival』(ユニバーサル ミュージック)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
発売元:株式会社テレビ朝日
販売元:TCエンタテインメント
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