続編でもブレない突き抜け方 『キングスマン』シリーズが示す、“現代の紳士の精神”
キングスマンのメンバーのコードネームが円卓の騎士の名前からとられているように、ステイツマンではテキーラ、ウィスキー、シャンパンなど、酒の名前がメンバーたちに割り振られ、彼らはアメリカン・ウィスキー「バーボン」の中心地である、ケンタッキー州の蒸溜所を本拠地として活動する。ウィスキーを含む、アルコール度の強い蒸溜酒を「スピリッツ」と呼ぶことがあるが、まさにアメリカン・スピリッツを体現する象徴として、バーボンが英国のテーラード・スーツと同じ意味で置かれているのだ。
東南アジアの麻薬密造地帯だった「ゴールデン・トライアングル」を想起させられる麻薬組織「ゴールデン・サークル」が、キングスマンの今回の敵だ。麻薬の原料となるケシの花を含む花の品種「ポピー」を名乗り、フィフティーズ風のアメリカンな秘密基地で暮らす、冷酷なアメリカ人の首領(ジュリアン・ムーア)の命令によって、キングスマンは再び全滅の危機に瀕する。そこで助力を頼むのがステイツマンなのだが、共闘関係が成立しながらも、キングスマンにとって彼らは「本当に味方なのか」ということがサスペンスフルに描かれる。それは、「味方のような気もするが敵のような気もする」という、多くのイギリス人にとってのアメリカへのイメージが如実に表れていて興味深い。
ステイツマンのメンバーをチャニング・テイタムが演じるということで本作は話題を呼んでいたが、意外に彼が作中で活躍してくれないという点では、残念だという声が多い。『ハリウッド・リポーター』のタロン・エガートンへのインタビューによると、チャニング・テイタムはスケジュール上の理由で、長期の拘束が必要になる役を演じられなくなったため、その役割の一部をペドロ・パスカルが担うという脚本に差し替えられたということである。ただ続編があるならば、チャニング・テイタムが引き続き出演する構想はあるという。
ポピーが世界中の多くの人命を人質にしながら突き付ける要求は、違法ドラッグの合法化である。彼女は、酒や煙草も習慣性があり人体に害を及ぼすし、砂糖を摂りすぎるのだって健康に悪い、それらが野放しになってるのは、もともとそれで稼いでいる人間が権力者とつながっているからだと訴える。その主張は乱暴だが、たしかに科学的に人体に害をなすことが分かっているものが商売として成り立っているのは事実である。無茶なキャラクターを出すことによって、現代社会の問題を指摘するというのは、前作から続く試みだ。
コリン・ファースが演じた、「キングスマン」のベテラン・エージェント、ハリーが「マナーが紳士を作る」と言っていたように、『キングスマン』シリーズが示すのは、「紳士の精神」そのものだ。前述したように「王や女王を守ること」が貴族の役割であり、そのために「国家を守ること」が、007同様にキングスマンの使命となる。しかし、下層階級出身のエグジーにとっては、そのような貴族の義務ではなく、颯爽として悪と戦うハリーのように、自分の信念を持って戦う「本物の男」になりたいという願いが原点にある。国のプライドではなく、世界中の人々の命を守るため、自分にとって大事な人を守るために戦うのが、エグジーの体現する「現代の紳士の精神」である。その姿勢は、本作もブレずに突き抜けていて気持ちがいい。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『キングスマン:ゴールデン・サークル』
TOHOシネマズ 日劇ほかにて公開中
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、タロン・エガ―トン、マーク・ストロング、ハル・ベリー、エルトン・ジョン、チャニング・テイタム、ジェフ・ブリッジス
配給:20世紀FOX映画
レイティング:PG12
(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
公式サイト:http://kingsman.jp/