ジャッキー・チェンは西洋と東洋の価値観を結び付けるーー『カンフー・ヨガ』が優れた作品となった理由
私は数年前、上海など中国のいくつかの都市を見てきたが、どこも好景気に沸いていて、古い建物を壊し、新しい建造物の工事が至るところで行われているのを目にしている。ひとつ気になったのは、高級貴金属店やブランド品店など、いかにも金が集まりそうな最先端の場所では、中国独自の文化ではなく、西洋的な価値観に支配されていると感じた点だ。ジャ・ジャンクー監督が『山河ノスタルジア』で問題として描いていたように、古来からの文化を伝える「古い中国」と、西洋的な文化に浸食された「新しい中国」は、かなりの部分で分断されているように思われる。
そんな西洋と東洋の価値観を結び付けるのが、ジャッキー・チェンという存在ではないだろうか。彼の内にある「カンフー」、そしてその魅力を世界に発信する映画という表現方法のなかで、画面に映えるよう美しく、ユーモアを多分に含みながら見せるという技術の蓄積は、まさに西洋と東洋との出会いであり、無形の世界的財産である。本作は宝を探す映画だが、「本当の宝」として描かれているのは、ジャッキーの技術そのものだったのだ。そしてそれは、ブルース・リーなどの先人からもたらされたものでもある。その宝はまた、多くの後進に引き継がれ、後世に伝えられていく…。
香港のアクション監督であるユエン・ウーピンも、ハリウッド大作で中国武術の技術を活かしたアクション指導をするなど、その魅力を伝える者の一人だ。本作では、そんなユエン・ウーピン監督とジャッキー・チェンがコンビを組んだ出世作『スネーキーモンキー 蛇拳』を思わせる拳法も導入されており感慨深い。
だがインドとの合同制作である本作は、そんな中国の偉大さばかりを一方的に強調しているわけではない。インドのヨガ文化の神秘性や、インド伝来の中国武術で戦うなど、「インドあってこその中国、中国あってこそのインド」というように、他国の文化を尊重し合っているところが素晴らしい。そのようなテーマが、本作のアクションそのものと共鳴しているのだ。だからこそ本作のアクションには、ただの興奮だけではない、じんわりとした深みがある。外国の人々を、他の文化をリスペクトし、影響を与え合うことが平和への道である。本作のおおらかなラストはそのことを伝えているのだ。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『カンフー・ヨガ』
全国公開中
監督:スタンリー・トン
出演:ジャッキー・チェン、アーリフ・リー、レイ(EXO)、ソーヌー・スード、ディシャ・パタニ、アミラ・ダスツール、エリック・ツァン、ムチ・ミヤ
配給:KADOKAWA
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公式サイト:http://kungfuyoga.jp/